第32話 ヒーラー、森へ向かう
場面は戻り、アモンの村にいる俺たちはエルフのソレーヌの事情を知ることができた。ソレーヌが体調が万全であるのを確認して、森の中のエルフの畔に行くことになった。パーティメンバーは俺とセシリアとルミナが同行する。パトラは非戦闘員なのでアモンの村でお留守番兼、自身の本業である商売する商品の仕入れをしているとのことだった。
森へと向かう前にファラス村長とパトラが見送りに来てくれた。
「わしらがお世話になっている妖精たちをどうか助けてやってくれ。これはわしのささやかな気持ちじゃ、受け取ってくれ」
そういって、俺に青い液体が入った小瓶を4つ渡してくれた。
「これは何ですか?」
「これはこの村の医師が上薬草で作ったハイポーションじゃ。体にかければ即座に傷が回復する。おぬしはヒーラーじゃが緊急時に使うがよい」
「ありがとうございます!」
俺はその小瓶をみんなに一つずつ持たせた。
「みんな頑張ってくるんだぞ! オイラは無事を祈ってるからな!」
「うん、パトラもしっかりお留守番しててね」
セシリアはパトラの頭を撫でる。
「パトラちゃん、行く前にほっぺをぷにぷにしたいです」
「だめだぞ」
「そんなぁ……」
ルミナの要望を拒否してパトラは俺の元に歩いてくる。
「フール! ダンジョンで良いアイテムがあったら持ってくるんだぞ。オイラが売り捌いてやるからな!」
「分かった、お土産しっかり持ってくるからな」
「うむ! じゃあ気をつけてなーー!」
パトラと村長に別れを告げて、俺たちは森の方へと進む。
アモンの村から森までの距離はそう遠くはない。しかし、ソレーヌの案内がなければ迷ってしまいそうなほど木々が生い茂っている。バールの国周辺の林とは大違いなほど緑が広がっている……と、思っていたのだが森へ入ると至る所が火事で焼け焦げており、緑の世界に黒色が点々としていた。火事がひどい場所はまるで森に穴が空いたように木が無くなっている。そんな光景が大火事の酷さを改めて感じることができた。
「こんなに木が焼けて無くなってるなんて……」
セシリアは一つの焼け焦げ炭になった木の一部を悲しそうな顔で拾い上げる。
「……‼︎ ひいっ⁉︎」
しかし、それは木では無かった。焼け焦げ、死んでしまった
「どうしたセシリア?」
「し、死体だった……」
「小妖精も大火事で多く死んでいます……驚いてしまうのも無理はありません」
ソレーヌが気を利かせて、セシリアにそう言葉を告げてくれた。自分の仲間が死んでいるのに他人を思いやる気持ちを忘れていないのは気持ちが強い証拠だ。それがなければボロボロの状態で助けを呼びに来ることなどできない。
俺たちがさらに森の奥へ進もうとした時、先頭を歩いていたソレーヌが立ち止まる。
「どうしたんだソレーヌ?」
「静かに……」
ソレーヌは何かを感知したに違いない。エルフを始めとした妖精族は感覚が鋭い為、五感も優れている。きっと何かが聞こえているのだろう。因みに俺は全く何も感じない。
「……伏せて‼︎」
ソレーヌが突然叫んだのを聞いた俺たちは思わず体勢を低くする。その時、俺たちの体の上を風を切るような速度で何かが通り過ぎた。
「気をつけてください! 巣を焼かれたベビーホーネットの大群です‼︎」
ベビーホーネットとは小さな蜂の形をしたC級モンスターである。巣が有ればちょっかいを出さなければ人を襲うことなどない魔物だが、巣がなくなると途端に凶暴になる魔物で、刺されると麻痺を受けてしまう厄介なモンスターだ。
空中にはその軍勢が宙で固まって飛んでいる。小さな虫の羽ばたき音が空中から数多聞こえてきて気持ちが悪くなる。
「む……虫は嫌ですぅ‼︎」
ルミナはすぐに盾を前に出し、自分の身を守っている。
「私の攻撃が届かないところにいるわ……」
飛ぶ敵にはセシリアの攻撃が届かない可能性が出てくる。
となると、ここは俺が……
そう思った時、ソレーヌが背中の魔導弓を持ち、構える。
「みなさん! ここは私に任せてください!」
ソレーヌがその弓を引く構えを取ると、魔導弓から光の矢が生まれる。
「範囲設定……目標……ベビーホーネット……」
ソレーヌの構えた弓の先にいるベビーホーネットの身体の一つ一つに六芒星の魔法陣が浮かび上がる。
「マルチロック完了……全てを貫け……"
ソレーヌが引いた矢を放つと光の矢は分裂し、全てのベビーホーネットの身体を貫く。貫かれた、ベビーホーネット達は地面へと力なく落ちていく。ソレーヌのたった1度の攻撃で全てのベビーホーネットを全滅させる事ができた。
「凄いわソレーヌ! その弓何なの⁉︎」
セシリアが目を光らせて、尻尾を振っている。ソレーヌの攻撃に興奮しているようだ。
「私の
「た……助かりましたぁ……」
ルミナが盾を背負い直して一安心している。ソレーヌは思わぬ活躍を見せてくれた。俺たちにとってソレーヌの力はかなり頼もしい存在となってくれるだろう。
ベビーホーネットがいなくなり、俺たちはまたこの森の奥へと進み始めた。
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