第31話 "特別精鋭パーティ"『グリフォン』

 一方、場所は変わりアガレスの国のギルドへと場面は移る。今日も大量の資料を机に乗せ、1枚1枚を丁寧に確認している初老の男、ギルドマスターのクレドがいた。そして、その男のいる部屋のドアがノックされると男は静かな声で入るように促した。


「入れ」


 ドアを開けて入って来たのは光沢が眩しく輝いた銀色の鎧を身にまとった美女が入ってくる。腰まで伸ばしたハーフアップな茶色い髪、腰には剣を、背には盾を背負った如何にも前衛職であろう女だった。


「及びでしょうかマスター」


「来たかカタリナ、ご苦労。最近……妙な事件ばかりが報告されている。バールの国にS級モンスターが現れ、襲撃されたという報告と同時にバールのギルドが解散されたという話も耳にしているだろう?」


「はい、存じております」


 カタリナは背筋を伸ばした正しい姿勢を崩すことなくクレドの話を聞いている。青い瞳が真っすぐにクレドへと向けられている。


「そして……アガレス近郊の大森林が何者かの手によって大規模な火事が起きた……カタリナよ、これが世界の変調だと誰が思わない?」


「いえ、わたくしもマスターと同じ考えでございます。最近、そのような事件が多々入ってきているとのことで我らギルドメンバーたちも恐れるものが多いです」


「ふむ……それで、私から一つ提案したいことがある。だから、我らギルドの中で最も優れたS級冒険者であるお前をギルド代表としてここに呼んだのだ」


 クレドは椅子から立ち上がり、背にある窓から外を眺め、街にいる人々の様子を見ていた。


「バールのギルドマスターであるアーカムが何をやらかしたかは分からんがこのままではソローモのギルドの面子が立たん。……私からの提案と言うのは、我がギルドで優秀なお前と選ばれし一般冒険者と契約して精鋭パーティを組んでもらうと言うことだ」


「精鋭パーティですか?」


「ああ、そろそろメンバーが来るだろう」


 そして、その言葉の通り誰かがギルドマスターの部屋の扉を開いた。ノックもせず荒く開かれた扉の後ろには3人の冒険者がいる。


「おい、ちびっ子。ここが集合場所なんだろうな?」


 扉を開けたであろう黄色い髪からでた大きい耳と豊満な胸が特徴的な獣人族の美女が仲間に話しかける。


「そうだけど、私はちびじゃないわよ!! こう見えて18よ!! 失礼しちゃう!!」


 後ろで低身長で魔法使いの服を着たピンク髪のツインテールの少女がそれに答えた。


「あはは……お二人とも、喧嘩はおやめなさいな」


 後ろで片眼鏡をかけ、長い大杖を背負った若い男が笑いながら二人の仲裁に入っていた。


「よぉ、あんたがこの国のギルドマスターか? あたいらとパーティを組みてぇとか何だかで呼ばれたがこいつらと組むのか?」


「ちょっと、聞いてないわよ!! なんで私がこんなガサツな女と弱そうな男と一緒に冒険しなきゃいけないのよ!!」


「まぁまぁ二人とも、私たちは精鋭パーティとして選ばれたのですよ。皆さん優秀ですからそこは安心して仲良くしていきましょ?」


「おめえは黙ってろ!!」


「あんたは黙ってて!!」


「……やれやれです」


 カタリナはまるで漫才でも見せられているのだろうかと思ったが戸惑う顔を見せない。


「マスター……まさか、この者たちが選ばれし冒険者ですか?」


「ああそうだ。ふざけているように見えるが実力は本物だ。拳闘士(グラップラー)であるS級冒険者”百獣ノ王キリングバイツ”ライナ、そして大魔導師(ハイウィザード)であるS級冒険者”爆炎使いボマー”サラシエル、最後に付与術士エンチャンターであるS級冒険者”指揮者コンダクター”セイン、この3人に来てもらった」


 S級冒険者……数多の高難易度ダンジョンを攻略してきた歴戦の覇者たちである。カタリナは3人からにじみ出る強者のオーラを感じていた。間違いない、こいつらの実力は本物だ……


「カタリナには、この者たちとパーティを組んでもらう。そして、君がこのパーティリーダーとして任務に出てもらおう」


「畏まりました。私、カタリナ……聖騎士パラディンとして、このパーティの矛となり、盾とならん」


 カタリナはパーティリーダになることを受け入れ、右手を胸元において承諾の意思を見せた。


「お前たちのパーティ名は『グリフォン』、大鷲のごとく鋭い爪で勝利をつかみ取り、誇り高きその地位を忘れるな……」


「けっ……頭の固い爺だぜ」


 ライナが部屋の床に唾を吐き捨てる。


「ちょ⁉ 汚いわよ!!」


「付いたら良いことあるかもだぜ♪」


「私の一張羅を汚さないで!! 獣と一緒とかマジ最悪……」


「ははは、仲がもう良いのですね」


「良くねぇよ!!」


「良くないわよ!!」


 このメンバーを私が引っ張って行かなきゃいけない……私がこのギルドの代表として恥ずかしくないように指揮をとらなくては……少し不安だが、私ならやれる!

 カタリナは自身の胸に手を置き、心の中で決意する。


「それでは早速、お前に言う最初の依頼は四神災害の調査・討伐だ」


「おいおい!! マジかよ⁉ しょっぱなからそんなパワーワード聞いたら血がたぎってくるぜ!」


 ライナは四神と聞いて相当テンションが上がったようだが、カタリナは四神と聞いて少し驚いてしまった。


「本当に……四神災害が現れたのですか?」


「うむ、場所はエルフの畔付近周辺の森。先に偵察してきた密偵スカウト学者セージたちの調査・解析から四神が現れたで間違いはないだろう。四神はおそらく、ダンジョンを生み出してそこを根城にしているだろう。初回から過酷な任務だと思うがお前たちならできるな?」


「とーーぜんよ! 私を誰だと思っているのかしら? 泣く子も黙る爆炎の支配者サラシエル様よ!! 四神など爆発無残にしてやるわよにゃーーはっはははは!!!!」


 サラシエルは余裕の表情で慢心しきっている様子だった。こういう考えを持ったものから先に足元をすくわれると知っているカタリナはパーティリーダーとして注意いしなくてはいけないと感じる。


「しかし……四神となると相手もS級モンスターをはるかに超える力を持った魔物……従来の戦い方ではまず勝ち目はありません」


 セインが冷静に分析するがそれを茶化すかのようにライネがセインの肩を組む。


「大丈夫だっての!! 出会ったそん時はあたいが守ってやっからよう」


「ライナさん近いです……あと、胸が当たってしまっていますので……」


 セインの脇腹にライネの豊満な胸が当たっているが、ライナはお構いなしにセインをいじる。


「あーーん? 胸の一つや二つ誰でもついてるだろうが?」


「ちょ、あんたやめなさい。セインいやがってるじゃん」


「うっせチビ」


「うるさいデカ乳」


 今のところ、まったく連携が取れるようには思えない……本当に自分が大役を任されているという自覚があろうのだろうか? やはり、今後教育は必要かもな……


「私がこの者たちを引き連れ、必ずや四神を討伐して参ります。このギルドの誇りにかけて!」


「期待している。それでは行って参れ!」


「はっ!」


「へーーい」


「任せておきなさい!」


「了解です」


 そうして、4人が部屋を出ていこうとしたときカタリナだけ最後にクレドに止められた。


「カタリナ、それともう一つ別件だ」


「はい、何でしょう」


「うちのギルドメンバーであるセシリアという獣人の女の消息を辿れ、最近見かけんのだ……頼むぞ」


「……畏まりました」


 カタリナはゆっくりとドアを閉め、ギルドマスターの部屋を後にする。


「……私の、可愛いセシリア」


 そう呟いたクレドは明るく照らされた街の様子を眺め続けているのだった。


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