第34話 ヒーラー、獣に襲われる

 洞窟から先に出てきたセシリアとルミナが外へと出ると森全体の右側、つまり四神が潜んでいると言われていたダンジョンの方角から激しい爆発音などが聞こえてくる。2人はその音がする方へと掛けていくと森の中で少し開けた場所へと出る。


「確か……ここらへんから音が……」


「セ……セシリーあれ!!」


 その場所の奥で1人の人間の姿が見える。しかし、その人間の周囲には巨大なカマキリのようなモンスターに囲まれている様子が見えた。後ろ姿は黄色く長い髪から女性にも見えるが露出された背中から見える鍛え抜かれた綺麗な筋肉が目に入るので性別が分からなくなる。その人は武器は何も持たず素手だった。そして、その人間の近くの地面に切られた跡が見えた。


「あの魔物、本で読んだことがあるわ!ギガマンティスよ! しかも複数体に襲われてる人がいるし! 助けに行かないと!」


 もしかしたら、さっきの衝撃音はギガマンティスの攻撃による音だったのかも知れない。セシリアは直ぐにでも助けようと走り出そうとした時、ルミナが肩を掴んでセシリアを止める。


「待ってセシリー! 何だか様子がおかしいよ」


「え?」


 セシリアは落ち着いてよく見てみるとギガマンティスの方がガクガクとおびえている様子だった。


「なぁ~~んだよお前らあたいを見て…その顔はなんだ?」


 ギガマンティス達は囲んでいるその人間を見て、自身のその大きな鎌のような手を振り下ろすことが出来ない。なぜなら、ギガマンティス達はこの女からにじみ出る鬼神のオーラを感じていたのだ。


「折角リーダーの目を盗んで昼寝してたら取り囲みやがってよ……それに寝起きの私は機嫌が悪いんだ。このライネ様の睡眠を邪魔した……てめぇらをぶっ殺す!!」


 そう言うと、ライナの右手が変形し、鋭利な爪が生えた恐ろしい獣の手へと変貌する。


 それを見たギガマンティスの1匹がいきり立って自身の鎌をライネに向けて一振りする。

 しかし、ライナは高く飛び上がり体長20メートルもあるギガマンティスの身体をよりも高く飛び上がった。

 そして、落下してくるライナは自身の獣の右手を構える。


「吹っ飛びな!! "天来蹂躙拳ガイアスマッシュ"!!」


 ライナは着地する直前に落下の力を利用して右手を地面へと殴りつける。大地が割れ、ライナの周りに強烈な衝撃波が生まれると大きな音をたてながら周囲の者全てを吹き飛ばした。その衝撃はすさまじく、遠くに居たセシリアとルミナの身体も吹き飛ばされそうになってしまう程の威力だった。そして、その女の周りにいたギガマンティスをはじめ、周囲の木々が消し飛んでいた。その場所に残ったのはその女だけだった。


「あのギガマンティスを一瞬で? な……なんて威力なの?」


 セシリアとルミナが驚いている間に俺とソレーヌも2人に追いついた。驚いた顔をした2人の様子が目に入る。


「どうしたんだ2人とも? さっきの音は?」


「フールさん! あの女性が!」


「女性?」


 俺がルミナの示した方向を見る。


「あいつは一体?」


 俺たちがその女を見ていると女の目と俺の目が合ってしまい、こちらの存在に気づかれてしまった。


「なんだぁてめぇら? カマキリの次は輩か? ……はっ! 楽しくなってきたぜ! なぁ! あたいと戦おうぜ!! あたいは今戦いたくてしょうがねぇんだ!!」


 そう言って、女はこちらに向かって走ってくる。その女の足が獣の足となっており、まさに獲物を追いかける肉食獣の用だった。俺たちが身構える前に俺の目の前へとやってくると獣の右手の爪を俺に振り下ろす。


 速い! ……このままではやられる!


 しかし、その一瞬の間にセシリアが俺の前へと立ち、二刀の刀で獣の手を受け止る。女は攻撃されたのにもかかわらずまるで楽しんでいるかのようににたりと笑う。


「セシリア!!」


「へぇ……あたいの攻撃、受け止められるんだ? やるじゃん」


「急に……襲ってきて……何なのよあなた!」


 2人がにらみ合い、拳と刀で鍔迫り合う。女は楽しむかのように余裕の表情である一方で、女の攻撃を受け止めているセシリアの腕と足が震えている。どうやら、女の力が強いのか受け止めるだけで精一杯のようであった。


「セシリーから離れて! "盾打撃シールドバッシュ"!」


 ルミナが背中から大盾を取り出すと女へ向けて横に押し出す。ルミナの攻撃によって横にふらついた女に隙が生まれる。


「セシリー! 今だよ!」


「たぁああ!!」


 セシリアは女に向けて二刀の剣を振った。しかし女はそれを片手で受け止めた。


「結構ガッツあんじゃんてめぇら」


「くっ!」


 セシリアは剣を女から離し、距離を取る。ルミナが俺たちの前に出て、盾を構えている。


「輩にしてはやるじゃねぇか……少しだけ本気ださねぇとなぁ‼︎」


 女がまた俺たちに襲い掛かろうとしたその時だった、別の方向からこちらに向かってくる人影が見えた。そして、その影は飛び出てくると女の前に立ちはだかる。それは銀色の輝く鎧を見にまとった美しき顔立ちの女性だった。


「"結界牢獄バリアプリズン"!」


 すると、飛びかかる女の周りに光の檻が生まれ、その女を閉じ込めてしまった。


「な、何すんだカタリナ! てめぇ! 今いいところだったろうが!」


「馬鹿者、輩かどうかも分からぬ者に急に襲いかかるなど冒険者として失格だ。獣なら檻の中で少し頭を冷やしていなさいライナ」


「てんめぇ! ふざけんな!」


 牢に閉じ込められた女は自身の爪でその牢を壊そうとするが、びくともしない。鎧を着た女は牢の中の獣の戯言など無視して俺たちに顔を向けた。


「すまない。私たちのパーティの一員が無礼な真似をした、許して欲しい。私はカタリナ、この森の調査をする為にアガレスからやってきた聖騎士パラディンだ」


「アガレス……」


 セシリアはその言葉を聞くと顔を青くして俺の後ろに隠れた。


「獣人?」


 カタリナがセシリアに気がつくが、俺がそれを庇うように前に出る。


「ああ、えっと……俺はフール、回復術士だ。その女性は?」


「こいつは最近、私とパーティを組んだライナという女だ。私の指示を無視してこんな所で油を売っていたとは情けないにも程がある」


「だって、調査……退屈なんだよ」


「わがままを言うな、他の仲間がダンジョン前で待機している。行くんだ」


「……へいへい」


 ライナの返事を聞いたカタリナは結界牢獄を解いてやると、だるそうな様子でダンジョンの方へと向かっていった。


「カタリナと言ったか、さっきダンジョンへ行くと言っていたが?」


「ああ、私達はこの森を焼き尽くした元凶を葬りに行かなければならない。お前達は知らないだろうがここは今、未熟な冒険者が来ていいところではない、引き返すのだ」


 このカタリナは俺たちと同じく四神討伐の為に来たようだ。俺たちへの物言いとあのライナとか言っていた女の強さからして、おそらくこいつらは S級パーティか……しかし、俺たちもおいおいと引くわけにはいかない。


「お気遣いありがとう。でも、俺たちもカタリナ達が行くダンジョンに用があるから言葉と気持ちだけ受け取っておく」


 俺がそう言うと、カタリナは俺たちを睨みつける。


「あのダンジョン内に何がいるのか知らないのであろう? あれはだな……」


「四神だろ?」


 俺はカタリナの話の途中に割り込んで話す。


「……お前の冒険者ランクを言え」


「F級だ」


「F? 冗談もいい加減にしろ。真面目に答えるんだ」


「俺はF級冒険者だ。これが証拠だ」


 そう言って、俺はカタリナに自分の冒険者証を見せるとカタリナは驚いている様子を見せた。そして、カタリナは俺に背を向ける。


「ともかくだ……お前らが来ても私たちの足手まといになるだけだ。今すぐ立ち去るのだ」


 それだけを告げるとカタリナはダンジョンのある方へと駆けて行った。


 カタリナから言われた台詞……『足手まといになるだけ』、ダレンにも言われた台詞をまた吐かれた。俺は別にむきになったわけではないのだがその言葉にだけはどこか特別な反発心を持ってしまう。


「みんな……俺たちも行くぞ」


 俺が静かに伝えると、全員が縦に首を振る。そして、俺たちはカタリナが歩んでいった道を辿って四神のいるダンジョンを探しに向かった


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