第29話 ヒーラー、エルフをヒールする
俺たちはこの村に一軒しかない宿屋へと向かった。宿屋の入り口は珍しいものを見ようと押し寄せる多くのやじ馬で溢れかえっていた。村長が来たことに気が付くと、人々は急いで道を開く。
すると、宿屋の女将さんが村長の近くへとやってくる。
「村長! 大変な状況です‼ それと、この方たちは?」
「旅の冒険者の方じゃ。回復術士をしておると聞いたからついてきてもらったんじゃ。それで、そのエルフはどこじゃ?」
「こちらです!」
そう言って、俺たちを一つの部屋へと案内してくれた。そこにはボロボロになった服を身に着けた緑髪のエルフが苦しそうにベットで横になっている。体中が酷い火傷によって赤く腫れており、一部が黒く焦げてしまっているところもある。擦り傷、切り傷も体や顔にもついていて、出血もしている。こんな状態でここまで歩いてこれたことが奇跡に近い状態だった。
「はぁ……はぁ……」
苦しそうに息を吐く彼女の隣に村の医者が付きそうっていたが深刻な顔つきだった。
「どうじゃ、この子の容体は?」
「……私が持っているハイポーションを使ってもこの傷を完全に癒すことは難しいです。恐らく、回復魔法を持ってしても私が使えるのは初級回復魔法のみ。もし初級回復魔法で治すとなると、1日以上回復魔法をかけ続けなければ彼女は体の傷が癒える前に衰弱死してしまうだろう」
医者は目を伏せて話をする。
「1日中じゃと!? それほどの魔力を持つ者など居るわけがない!!」
「はぁ……はぁ……」
この空間は間違いなく絶望的な空気感が漂っていた。あまりの絶望感に医者も村長も為す術がないといった様子で肩を落としている。部屋にはエルフの苦しそうな息を吐く音だけが耳に入ってくる。
「フール……」
セシリアが俺の服の袖を掴み、目で訴えている。
セシリア……お前の言いたいことは分かる。勿論、俺もそのつもりだ。
「村長さん」
俺はファラス村長の肩を掴む。
「な、なんじゃ?」
「俺に……この子をヒールさせてください」
「なんじゃと!? 聞こえていなかったのか! 一日中この子に魔法をかけ続けんといかんのじゃぞ!?」
「勿論、一日中です」
俺の言葉に医者もファラス村長も驚いていたがセシリアもルミナも尊敬の眼差しで俺を見ていた。
「大丈夫だぞ! こいつはな、凄いんだからな!」
パトラはトコトコと歩き、俺の前に出てどや顔で仁王立ちしてみせる。
俺は冷静にパトラを抱っこして、元いた場所に戻す。
「俺は回復術士です。この子をヒールさせてください!」
俺の言葉にファラス村長と医者は顔を見合わせる。そして、もう頼る者がないと言う顔でファラス村長が俺の手を掴む。
「フール、頼む! このエルフを助けてやってくれ!」
「任せてください!」
そして、ファラス村長と村医者には部屋から出て行って貰い、この部屋には俺たちパーティメンバーとエルフだけが残った。最初に俺はエルフの身体の様子を見た。高温やけどと草木によって出来た切り傷が酷すぎる。これだけでも身体は弱ってしまう。俺はエルフの額に手を当てる。
「あちっ!! 凄い熱だ……」
まるで焼いた石が頭にでも乗っているかのような熱さが手に伝わってくる。身体の傷と病のダブルパンチか……これは厄介だ。
「フールさん……この子凄く苦しそうです……見ていてとても可哀想……」
ルミナが凄く不安そうな顔でエルフのことを眺めていた。
「オイラ、病気に効く食べ物買ってくるんだぞ!」
そう言ってパトラは部屋を飛び出していく。
「フール、私……一日中フールの事、全力で手伝うから!」
「私もです!」
セシリアとルミナがそばに居てくれている。みんなそれぞれ、俺のお手伝いをしてくれている。俺も頑張らなくては……!
「癒やしの風よ、この衰弱せし妖精を癒やしたまえ……”治癒(ヒール)”!!」
フールが魔法を詠唱すると緑色のオーラがエルフに纏い始める。
「うっ! くぅ!」
エルフが苦しそうにもだえ始めるが俺は動揺せず魔法を詠唱し続ける。部屋中が緑色の光に照らされ、窓から漏れたその光が宿の外にいる村長達の目に入っていた。
「始まったのじゃな……」
こうして今から、俺しか出来ない長時間の魔法治療が始まった。
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