第2章 森林炎上編
第28話 ヒーラー、アモンの村へ
一方でバールの国を後にしたフールたちは新たに手に入れた荷馬車を軽快に走らせて、街道を進んでいた。今日は天気も良く心地が良い気候で人も多く歩いているのであいさつしながら進んでいく。本当に四神などこの世に居るのだろうかと思わせるほどのどかである現在にフールはとても心地よさを感じていた。北の方へと馬を走らせていくと大きな川を繋ぐ石造りの橋が見えてくる。その橋を渡りながら、横に流れる川を優雅に眺める。ギルドに居たときはこんなところに来ることもなかったのでとても楽しい気持ちだった。
「この馬車に揺られてぼーーっとするのが良いのよね~~」
「分かるよ~~セシリー、なんだか眠くなってきちゃうよね」
「むにゃむにゃ……もう食べれないんだぞ……すやすや……」
「パトラちゃん気持ちよさそうに寝てるわね~~」
「このぷにぷにの頬、溜らなく可愛いです♪」
3人が後ろでまったりとくつろいでいる様子だけで世界が平和であるように見える。
そして、橋を渡り切り、ある程度道を進んでいくと分岐点に差し掛かった。目の前には看板が立てられており、右はアガレスの国、左はアモンの村と示されていた。
俺たちに旅の目的は無い為、進む道はどちらでも良いのだがここはみんなに聞いてみることにした。後ろを振り返って3人にどちらに進みたいか聞いてみることにした。
「おーーいみんな、アガレスの国とアモンの村どっちに行きたいか?」
「えっ……アガレスの国……」
セシリアが急に嫌そうな顔をし始めた。そう言えばセシリアはアガレスの国のギルドに所属していたと言っていたのだがギルドの仲間から馬鹿にされていると聞いた。まぁ、馬鹿にしている奴らがいる国など行きたくないのは分かる。
「セシリーどうしたの?」
ルミナが心配そうに尋ねる。
「私、アガレスはちょっと……今はまだ行きたく無いかも……」
「いや、分かってるよセシリア。よし、一度アモンの村に行ってみようか。ルミナもパトラもそれでいいな?」
「私は大丈夫です!」
「ふへへ……大儲けだぞ……すぴぃ~~」
パトラは……まぁ大丈夫だろう。そう言うことで、俺たちはアモンの村の方向へと向かう。さらに進んでいくとアモンの村を指し示す看板をまた見つけ、そちらの方へと進んでいく。
そして、数時間馬を走らせると柵で囲まれた小さな村が見えてくる。近くには田畑があり、農作業をしている人々の様子が確認できる。俺は荷馬車を村の入り口近くに止めて、馬と柵を紐で繋げた。
「みんな、着いたぞ」
「ふーー着いた着いた」
セシリアはぴょんと飛んで、荷馬車から降りる。
「ほら、パトラちゃん起きて!」
「むにゃ? ここどこだぞ?」
ルミナがパトラを起こすと目を擦りながらふらふらと荷馬車から降り、大きな欠伸を見せる。ルミナもパトラが落ちないようにパトラに続いて降りてくる。
こうして、俺たちはアモンの村の中へと入って行く。バールの村はバールの国とは違い、大きな建物などは無く村人たちの家と何軒かある道具屋と小さな宿屋だけの小さな村だ。都会に長く暮らしていると、こういった喉かで静かな村は新鮮な気持ちになる。村の中を歩いていると、1人の男性が俺たちに気が付いて話しかけてきた。
「見ない顔だけど、君たちは冒険者か?」
「はい、バールの国からやってきました。フールと言います」
「そうですか! 遠いところからわざわざお越しくださって嬉しいです。よろしければ村長に挨拶していってください! 案内しますから」
「ご親切にありがとうございます」
俺たちは村人の男性に連れられ、民家の中でも一際大きな家の前へとやってきた。どうやらここが長の家だろう。村人がその家の扉をノックすると扉が開く。そこには優しそうな顔をした白い髭を生やしたおじいさんが出てきた。
「ファラス村長、旅の冒険者の方がいらっしゃいました。よろしければ挨拶をと思いまして」
「おおそうか! 入りなさい!」
「失礼します」
村長に促されたので家へと4人は入り、4人掛けの椅子に座るよう言われ、着席する。そして村長は人数分の紅茶を入れ、俺たちの前に差し出した。
「よくぞこのアモンの村へとやってきました。わしはこの村の村長をしているファラスと言うものです。以後、お見知りおきを」
「初めまして、俺はフールです。回復術士をしてまして、バールの国から来ました。こいつらは仲間のセシリアとルミナとパトラです」
「よろしくね!」
「よろしくお願いします!」
「よろしくだぞ!」
3人はしっかりと頭をさげる。ファラスも俺たちの行儀の良さに感心しているようだった。
「ほっほっほ、遠いところからご苦労じゃったな。気が済むまでこの村でゆっくりして行くがよい! ああ、そう言えばお前たちは最近この村の近くの森についての話は知っておるか?」
「森の話とは一体?」
「この村の近くに広い大森林があるんじゃが、そこにはエルフや小妖精などの妖精族達が暮らす水辺”エルフの畔”があるんじゃ。だが最近、その森で大火事が起こったようで多くの妖精族が犠牲になったと聞いとるんじゃ。わしらも妖精達とは近場と言うこともあって道具や食材をお互い提供し合ったりしておる仲じゃったから心配でなぁ……今、アガレスの人らは調査をしとるのじゃろうか……心配じゃ……」
俺はあまり見たことはなかったが妖精族とは森の奥深くに住む、綺麗な外見をした人間によく似た種族だと言うことは知っていた。人間よりも感覚に優れており、その長所を上手く扱える職業(クラス)につくものが多い。その他、魔力に優れた小妖精や妖精族の守護者でもある木妖精(トレント)と共に生活しているという話も聞いている。
「その火事の原因って、誰か人の手によって起こされたことなのかしら?」
「それも分からないんじゃよ。少なくとも火事が起こっている時間は皆農作業をしておるから村の者とは考えにくいのじゃが……情報が足りないのう……」
「森の中、心配ですね……」
そんな感じで村長と話していると村長の家に大急ぎで村人が駆け込んできた。
「村長!! 大変です!! 傷だらけになった一人のエルフがやってきました!! もう衰弱しきって、村に着くなり倒れてしまって……今、緊急で宿屋に運んで寝かせています!!」
「なんじゃと⁉ 今行く!!」
そう言って村人と尊重が慌てて外に出ようとする。
「フール殿、すまんがついてきてくれないかのぅ!!」
「分かりました。みんな行こう」
村に突然、傷だらけのエルフが現れたとのことで俺たちは村長と共にそのエルフが運び込まれた宿屋へと向かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます