第18話 緊急事態発生

 フールのその言葉にダレンは面を食らった顔をしていた。

 きっと予想されてないリアクションが返ってきたから戸惑っているのだろう。


「俺の優しさで言ってるんだぞフール! それをお前……無駄にするつもりか⁉︎」


「お前の優しさなんていらないんだよ。俺はお前らみたいに実力をひけらかす奴らと冒険なんてしたくない。ましてや、俺を馬鹿にしていた奴らのところにどうして俺がいかなきゃ行けないんだ。もうお前らの事なんて知らないんだよ」


 俺とダレンは睨み合う。引き戻そうとするダレンとそれを拒否する俺、まさに一触即発の空気感だった。

 しかし、俺たちの争いの最中にも関わらず下の階がやけに騒がしい様子だった。そして、階段から勢いよく受付嬢2名が深刻な顔をして駆け上がってくる。


「た、大変です‼︎ バールの国にS級モンスターが侵入しました‼︎ 冒険者の皆様は緊急クエストとして撃退を行って下さい‼︎ ご協力お願いします‼︎‼︎」


 息を切らしながら集会所内の冒険者に呼びかけていく。

 すると、国が緊急事態の時に鳴らされる鐘の音が施設を含めた国中に響き始めた。

 緊急クエスト、それは国に何らかの被害が及ぶイベントが発生した場合に起こるものだ。国中の冒険者たちがそのクエストに参加して、国を守ることがこのクエストの目的だ。もし、このクエストで活躍できると国から大きな報酬を貰えるのだ。


「何⁉ S級モンスターだと⁉ くそ! フール、話は後だ。緊急クエストに行ってくる。お前はおとなしくしてろ!」


「いや、俺も行く!!」


「来るな!! 足手まといなんだよ!!」


 ダレンは俺にそう言い残すと駆け出して集会所から出て行った。


「フール!! どうする⁉」


「……行くぞセシリア!!」


 俺とセシリアは走り出し、2階から1階へとかけ下がっていく。外では市民たちが慌てふためき、城下町は大パニックとなっていた。しかし、怯えているのは市民たちだけではなかった。S級モンスターと聞いた下級冒険者たちも泣きわめいて逃げ出したり、隠れたりするものもいる。S級モンスターとまともに戦える冒険者はA級からなのだがこのバールの国は高いランクの冒険者が少ない。そのため、この国で唯一の戦力はダレンを含んだS級ギルドパーティしかいなかったのである。


 俺たちは逃げ惑う人々の流れに逆らって、この国の中央広場まで進んだ。中央広場までやってくると国の近衛兵ロイヤルガードや冒険者たちが至る所で倒れていた。先にモンスターと戦っていたが破れてしまったのだろう。

 倒れている中で辛うじて息をしている冒険者の一人に話しかけた。


「おい大丈夫か⁉︎ 一体何があった⁉︎」


「ガハッ……に……にげろ……敵は……あの……ドラゴンだ」


その時、上空からけたたましい鳴き声が聞こえてくる。


「フール……あれ……」


 セシリアが中央広場の上空を指さして言った。俺はその方向に顔を向けるとそいつはいた。

 白く輝くプラチナのような鱗に覆われた巨体をその巨大な翼で羽ばたく、巨大な竜……爪は黒水晶のように黒く、先端が鋭く尖ってる。そしてなんといってもその竜の顔は細身ではあるが凛々しく、その大きな黒目の先の闇へと広がる世界に吸い込まれそうだった。


「これがS級モンスターなの……?」


「まさか……あいつはドレイク種の中でも最高ランクに近いモンスター……”銀翼古竜”エンシェントドラゴンだ」


 俺は一度書物で読んだことがあった。めったに人がいる場所には来ず、ダンジョンに住み着き、幾戦のS級冒険者たちを倒してきた生きる化石のような竜……そんな奴がどうしてバールの国にへと来たんだ?

 俺がその竜に見とれていると竜の横から、大量の矢の雨が降り注がれる。矢の出所を確認すると、S級パーティの一人である狙撃手のロウが住宅の屋根から矢を放っていた。それに合わせて竜の下にいるシュリンが魔法を詠唱すると大きな氷の刃が竜へと飛んで行く。ロウの矢は右翼を貫き、シュリンの氷は左翼を殴打する。その衝撃によって竜は地面に墜落する。そしてその墜落した場所にはフルプレートアーマーを着たダレンが巨大なツヴァイヘンダーを振り上げ、その竜の脳天に重い一撃を喰らわせた。流石はこの国一番のパーティだ。見事なチームワークと実力はS級の名は伊達ではないと感じることができる。


 しかし、竜の頭部に振り下ろしたダレンのツヴァイヘンダーの刃が銀色の鱗によって防がれ、刃先が肉まで届くことができなかった。


「馬鹿な⁉」


 驚き、戸惑うダレンの隙をついて竜はダレンを爪で切り裂き、住宅街の壁へと吹き飛ばす。そして、起き上がり遠くに居たロウに向けて勢いよく炎ノ息吹ファイアブレスを吐くとロウはそれをもろに食らってしまい、そのまま家の屋根から転落してしまった。回復術士であるアインが急いでダレンの元へと向かおうとするがそれに気が付いた竜が行く手を阻む。アインも果敢に衝撃波を生み出す攻撃魔法を飛ばすがヒーラーの魔力では敵うわけがなく口を大きく開けた竜にそのまま食べられてしまった。

 そして、一人残ったシュリンが次の魔法の準備をし始めるが竜は勢いよく翼を羽ばたかせ、暴風を生み出した。


「くっ……これじゃあ魔法が詠唱できない……」


 暴風に阻まれ、魔力を込めることができないシュリンに向けて、竜が上空で宙返りをした後に、その長い尻尾でシュリンを叩きつけようとする。


「きゃあああああああ!!!!」


 シュリンの叫び声が広場中にこだまする。しかし、シュリンは攻撃を喰らうことはなった。シュリンは瞬時に閉じた目をゆっくりと開けていくと目の前にはバックラーで竜の攻撃を防ぐ、金髪の獣人の少女がいた。


「大丈夫ですか⁉」


「あ、あなたは?」


「私はルミナ! D級冒険者です!! 助けに来ました!!」


 ルミナはシュリンを背に心もとない下位武器のバックラーで竜の攻撃を弾き返す。しかし、竜の攻撃が激しくバックラーの耐久力が減ってきていた。


「無茶よ! 早く逃げなさい! 貴方ではどうにもならないわよ!」


 しかしルミナはシュリンの言葉を無視して攻撃を防ぎ続ける。


「私には……大親友がいるんです!! その子を見返そうと思って高難易度ダンジョンを探してました。けど緊急クエストが発生したのを聞いてチャンスだと思い、仲間と挑みました……でも、仲間は全員倒れて私だけになってしまいました。でも、逃げるわけにはいかないんです。その子は良いパートナーを見つけて私を越えていきました。いつも私が一歩上だった存在だったのに……抜かれたのが悔しい!! 私もあの子に負けたくないんです!!」


 そして、ルミナのガードに嫌気がさしたのか竜はとうとう口に炎を含み始める。木製のバックラーではあのファイアブレスを防ぐことはできないだろう。でも、ルミナはシュリンを守ることをやめなかった。


 そして、竜はファイアブレスを2人に向けて解き放つ。


「……セシリア、ごめんなさい」


 ルミナが敗北を覚悟し、涙を流した時だった。


「まだ終わってない!!」


 その炎が当たる直前、俺は2人と炎との間に入り、2人を片手で抱きかかえながら向こう側へと投げ飛ばす。


「フールさん⁉」

「フール⁉」


 2人が驚いている間にも俺には炎が迫っていた。


「セシリア!!!!」


「任せて!!!!」


 さらに俺と炎の間にセシリアが入ると腰につけていたレイピアとロングソードを引き抜くと、それらをクロスさせて前に出し、迫りくるファイアブレスを受け止めた。


「くうぅ……全然……痛くないわよぉおおおお!!!!」


 セシリアが壁となり竜のファイアブレスは俺の両脇へとそれていく。俺はセシリアに”EX治癒”を持続詠唱しているため、魔力無限による防御力超絶強化と永久治癒によってダメージは実質ゼロとなる。そしてファイアブレスが吐き終わると竜は羽休めの為に地に降り立った。


「フールにセシリア⁉ どうして⁉」


「大親友のピンチに大親友が助けなくてどうするのよ!!」


 セシリアの言葉にルミナは大粒の涙を流す。隣でシュリンが俺を見て、目を見開いていた。


「フール……あなた……」


「シュリン、ダレンを連れてここから離れろ。この竜は俺たちが倒す」


「む……無茶よ!! F級のあなたにそんなことできるわけないわ!!」


「足手まといなんだよ……お前ら。だから、お前らは後ろで傍観でもしていろ」


 そう言って俺とセシリアはエンシェントドラゴンの前に立つ。


「行くぞセシリア」


「フールが居れば負ける気がしないわ!! 行きましょう!!」


 こうして、俺たちはこの国を守るためにS級モンスターと戦うことになった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る