第17話 ギルドに戻ってこい? お断りします

「おいひーー♪♪ ほのおにふおいひいねフール!!」


「ちゃんとよく噛んで食べるんだぞ」


 ダンジョン攻略の報酬を受け取り、金銭の潤いを取り戻した俺たちは一般ダンジョン窓口の二階の一般冒険者の集う集会所で食事を楽しんでいた。セシリアが食べているのはモーモーと言われる牛の肉をサイコロ状にして串に刺して焼いた、モーモー肉の串焼きを美味しそうにかぶりついている。一方で俺はこの店では安価な方である野菜たっぷりのクリームスープを頂いている。この店の価格設定は冒険者応援価格なのか基本的に安い。そのため、冒険者たちが多く集っている様子が見られた。


「なぁセシリア、良かったのかルミナの事。大親友なんだろ?」


「んん~~? ルミナは昔からああいう感じだからね、いつもの事よ。それに、フールの事を馬鹿にしてるんだからあとで私が強く言っておかなきゃ! はむっ! もぐもぐ……」


「あはは、俺の事は別にいいんだけどさ」


 俺たちが優雅に食事を楽しんでると奥の方でやけに冒険者たちがざわざわして騒がしくしているのが目に入る。そして、1人の冒険者が俺の方を指して誰かに伝えている様子が見えた。

 俺はあまり気にしていなかったが、その冒険者の大衆の中から出てきた人間を見たとき、俺のスープを運ぶ手が止まる。


「よう、久しく感じるなフール。失礼するよ」


 現れたのは見事な金髪、屈強な体つき、誰しもが認めるイケメン顔……そう、S級冒険者のダレンだった。ダレンは俺たちの席にずかずかと入ってくると俺とセシリアの前に座った。


「どうしてお前がここにいるダレン」


「ギルドメンバーからお前が一般ダンジョン窓口に入って行くのを見たと言っていたやつが居たんでね、せっかくだから顔を見に来たのさ。なんだよ、帰ってきてるならギルドに顔見せろよ。あ、そうか。お前解雇されてたの忘れてたわはっはは―ー!!」


 ダレンの態度にセシリアは激怒し、ダレンのテーブルの目の前に勢いよく肉がついていた串を刺した。


「あなた何なのよ! 来て早々フールの事酷く言うだなんて!」


 セシリアの怒った表情にもその串にも動じず、セシリアを嘗め回すように見ると口笛を一度鳴らした。


「なんて綺麗なお嬢さんなんだ。初めまして、私はダレン。ここのギルドで知らない人はいないS級冒険者だ。お嬢さんどうだい? こんな男となんかよりも俺みたいにイかした男と食事をしないか?」


 そう言ってセシリアの手を取るダレンだったが、セシリアは秒でダレンの手を離すと俺の腕に絡みついてきた。


「いやっ! 私はフールが良い!! 気安く触らないで!!」


「おや、残念だ。君は良い女だが見る目は無いみたいだな」


 ダレンはため息を一つ吐くと俺に向けて鋭いまなざしを見せてくる。


「それにしてもお前、B級ダンジョン攻略したんだってな?」


 急に低いトーンで話すダレン。どうやら真剣に俺のダンジョン攻略の事を信じており、聞き出そうとしているようだ。


「嘘だと思うならなんでここにいると思う?」


「ふふふ……まぁそうだよな。どんなトリックだかまやかしだかを使ったのかは分からないがF級であるお前がそこのお嬢さんと2人でダンジョンを攻略した事実は変わらない」


 ダレンは俺の席にある水の入ったカップを持つと一気に飲み干した。


「そこのお嬢さんのおかげで攻略できたとも考えにくい。獣人族でもソロでの戦闘には限界がある。だから、お前には何らかの力があった……そうだろ?」


「さあな、俺はただのF級回復術士だ」


 俺がそうしらばっくれると、ダレンは俺の目の前にある料理を腕で薙ぎ払った。料理が床にブチまかれ、ダレンが俺の襟をつかむ。


「答えろフール!! お前は何をしたんだ!!」


「フール……」


 セシリアが心配と怯えた目で俺を見つめた。


「大丈夫だセシリア……ダレン、俺がした事と言えば……」


「ああ、何だ?」


「……ヒールしただけさ」


 俺はダレンの顔を見る。ダレンの額には血管が浮き出ており、必死に俺の事を聞き出そうとしている様子がうかがえた。しかし、人間と言うのはここまで感情の熱に差が生まれると片方は変に冷静になることができる。だから、俺はよくわからないが冷静でいられた。それから俺はダレンの前で何も言わず黙秘し続ける。数分が経ち、ダレンが俺から手を離すと椅子に座りなおした。


「……まぁいい。俺がお前に会いに来たのはそれを聞きに来たこととあと一つ用件がある」


「なんだ?」


「……お前、ギルドに戻ってくる気は無いか?」


 それはダレンからの突然のギルド復帰の要望だった。ダレンは早々に口を動かし、俺に提案を離してくる。


「まさか、お前がB級ダンジョンを攻略できる実力を持ってたなんて誰も知らなかったんだ。それで、みんなお前事を馬鹿にしてたかもしれない。だが、お前にその力があるなら話は別だ。お前も知ってるだろ? バールの国でB級以上の冒険者が不足してるってことを。それで俺から提案だが、俺がギルドマスターに言ってお前を特別復帰させることを言えばお前もギルドに戻ってこられる。もし戻ってきたら俺のS級パーティに入れてやる! どうだ? その条件? 良い話だろ? それに安定した収入も衣食住も保証される。さあ、ギルドに戻ってこいよフール!!」


 ギルドに戻ってこいだと? 俺をさんざん馬鹿にしてきたギルドにか? それにギルドの看板であるあのダレンが俺に戻ってこいと言ってくるのは何か企んでいるに違いない……


 それに俺には……


 俺はセシリアの方を見る。セシリアが心配そうに俺の方を見ていたので俺は優しく頭を撫でてやる。


 俺にはお前らギルドよりも俺の事を理解してくれる仲間がいる。


 この提案の選択に悩む時間などいらなかった。


「確かに良い話だなそれ。でも……やめとくわ。俺はもうこっちでパーティを組んでるから。それにお前のところのギルドの事なんてもうどうでもいい。S級パーティに入れてやる? お前の? じゃあなおさら嫌だね」


 俺はテーブルを強くたたきダレンに向かって鋭く睨みつけた。


「ギルドに戻るなんてお断りだね」

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