雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜でも、ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった。噂を聞いたギルドが戻ってこいと言ってるがお断りします〜

第19話 ヒーラー、S級モンスターと戦う

　S級モンスターであるエンシェントドラゴンとの戦いが始まった。俺はセシリアに"EX治癒"を持続詠唱し続け、セシリアに向けて魔力を込め続ける。セシリアはロングソードとレイピアの二刀を持って、竜の元へと走っていく。

　竜はセシリアに向かって右手の爪を振り下ろすがセシリアはその爪を右手のロングソードで軽々と弾いた。竜の右手はセシリアの力量によって大きく上に跳ね返され、体勢が少し乱れた。それによってできた隙を突いてセシリアが竜の腹を切り裂く。確かに攻撃は当たったがダレンの時と同じく銀の鱗によって刃が下の肉まで届かず、ダメージを与える事ができなかった。

「切れてない⁉︎ こいつ凄い硬いわ⁉︎」

　俺はその様子を見て、魔力を込める量を増幅させる。あの硬い鱗すらも砕く絶大なる力で攻撃すれば倒すことができると考えたからだ。しかし、竜も攻撃を弾かれたのか激怒し始め、攻撃も激しさを増し始める。竜はシュリンにやって見せた羽ばたきによる暴風をセシリアに向けて行い始める。竜巻の中にいるような激しい風にセシリアは行動も視界も不自由となっていた。

「くうぅ！　これじゃあ前に……進めない」

　セシリアは一歩ずつゆっくりと進もうとするが風は強くなる一方で後ろに戻されてしまう。動きが止まったセシリアの様子を見た竜はそのまま一気に急降下するとセシリアに向けて尻尾を振り下ろしてきた。

　視界が悪い状態のセシリアにその攻撃を回避する余裕などなく、その尻尾がセシリアを襲った。しかし、尻尾がセシリアに当たった瞬間、尻尾がバネにでも当たったかのように弾かれてしまった。そう、今のセシリアは攻撃力と防御力が極限にまで上昇しているため、基本的な物理攻撃はほぼ通用しない状態だった。

　一方そんな戦いの最中、エンシェントドラゴンが俺たちに気を取られている間にシュリンはダレンの元へ向かい肩を持ってその場から避難した。

「はぁはぁ……悪い……油断、しちまった」

「良いの、あなたが無事なら……」

「早くS級を倒しに行かないと……この国が……今、誰が応援に来ている？」

「……フールよ」

　シュリンの言葉にダレンの言葉が詰まる。

「うそ……だろ……」

　そしてダレンはシュリンの手を払うと後ろを向いて激戦区に戻ろうとした。

「ダレン!!　行っては駄目よ!!　その傷じゃ危ないわ!!」

「馬鹿野郎!!　あいつが戦ってるってどういうことだ⁉　ダンジョン攻略の噂と言い……俺はあいつのことを確かめに行かないといけないんだよ!!」

　そう言って足を引きずりながら中央広場へと戻っていくダレンだった。

　そして、中央広場では竜が暴風を止めると住宅地の屋根から俺たちの事を観察していた。きっと竜もセシリアの異変に気が付いたのだろう。エンシェントドラゴンはドレイク種の中でとても頭の良い竜だ。

　奴はその知性すらも武器として扱い、冒険者を倒してきたのだから歴戦のS級冒険者でさえも苦戦を強いられるのもおかしくはない。

「何よーー‼︎ 馬鹿にしてるわけ⁉︎ こらーー‼︎ 降りてきなさーーい‼︎ やーーいやーーい‼︎」

　セシリアの挑発など見向きもせず、竜は冷静に広場全体の様子を伺っている。

　何を探しているのだろうか？　そう考えていると、俺と竜の目が合ってしまった。その時、竜は何かに気が付いたかの様に滑空し、俺の方へと飛んでくる。どうやら、俺の所為でセシリアが強化されている事が勘付かれてしまった様だ。竜はそのまま俺に鋭い爪を立てて襲ってくる。俺は回避を試みるも、素早い動きで近づかれた為、避け切る事できずにレザーアーマーを貫通して胸元を切り裂かれる。

「ぐはぁああ‼︎‼︎」

「フール‼︎」

「はぁはぁ大丈夫だ……」

　俺は自身に"治癒(ヒール)"を掛けて立て直そうとする。

　しかし、そうはさせまいと竜はさらに攻撃をたたみかけてくる。今度は尻尾を鞭の様に扱い、俺の身体に叩きつける。俺はセシリアの元へ吹き飛ばされ、それを庇う様にセシリアは俺の前に出て剣を構える。

「よくも……フールを……許さない‼︎」

　そしてセシリアは怒りに任せて、その竜へと向かっていく。俺は竜の攻撃によってエクストラヒールの詠唱が途切れてしまった為、支援効果（バフ）も減少し、持続回復効果は失われていた。

「待て‼︎ セシリア‼︎」

「たぁあああああああ‼︎‼︎」

　俺の止める声よりも先にセシリアは竜へとその剣を振るう。

　パキーーーーーン……

　竜に刃が触れたその時、セシリアのロングソードとレイピアの二刀の刃が折れ、遠くの地面に折れた破片が突き刺さる。硬い鱗によって酷使された刃の耐久力が尽きてしまい壊れてしまったのだ。

「そ……そんな……ぶ、武器が」

　呆然と立つセシリアに容赦なく、竜の巨大な足が振り下ろされる。迫り来る攻撃にセシリアは身体が震えて動く事が出来ない。

「あ……ああ……」

「セシリアァアアアアアアアアアア‼︎‼︎」

　俺は国中に響くほどの叫び声を上げた。