第3話 思い出

「ただいま〜〜」

玄関のドアを開けて、靴を脱ぎ捨て真っ先に台所へ向かう

家の外からはすでに夕飯の良い匂いがしていた。

「腹減ったー、ばあちゃん、今日何〜〜?」

台所には当たり前のように祖母がいて俺に気づくと振り返り、笑顔で

「おかえり〜肉じゃがだよ」

「玄関の靴、そろえたの?手洗いうがいは?」

「宿題終わってからだよ」

「へいへい~」

適当に返事をして、出来たての肉じゃがの芋をつまみ食い

「あ、コラ!ヒロ!」

ばあちゃんの小言を尻目に逃げる


ジリリリリリ!!!

目覚ましが鳴る

夢を見た

数年前の

祖母がいた頃の夢だ

懐かしい感覚、温かい気持ち

頬に一筋涙が伝った


目覚ましは、6時

洗面所に向かい、顔を洗った後台所へ向かう父は朝が早く、ほぼすれ違いか顔を合わせても軽く挨拶交わす程度だ。

今朝はもう既に姿が無い。適当にパンをかじって出かけて行ったようだ。

俺は断然御飯派。

あらかじめタイマーセットしていた炊きたて御飯をかき混ぜる

小さな鍋にお湯を沸かし、一人分の味噌汁を作る

フライパンに油を引き、ベーコンを並べ卵を落とし、焼く。

簡単な朝食だ。

男子高校生が作る朝食にしては、まあ、こんなもんでしょ?

カレーや肉じゃが、簡単な煮込み料理なら何とか作れる

御飯の炊き方、野菜の切り方、生きる事に必要なだいたいの知識は、全て祖母から教わった。

そんな祖母の事を久しぶりに思い出した朝だった。


幼い頃は、自宅から徒歩10分くらい離れた場所にある畑へ祖母の運転する自転車の荷台に乗って出かけた。

土いじりが大好きな祖母は、畑仕事をしている時とても生き生きとしていて、その様子を見るのは好きだった。

祖母が畑仕事をしている間、俺は虫を捕まえたり草花を摘んだりして遊んだ。

野菜を一緒に植えたり、収穫したりもした。

帰りは、自転車に野菜を積んで、祖母は自転車を引き、散歩しながらゆっくりと帰宅した。夏は帰宅途中の、商店でアイスを買ってもらい、食べながら帰るのが定番だった。

自転車の乗り方を教えてくれたのも祖母だったけ。何度も、何度も、乗れるようになるまで、根気強く側にいてくれた。

俺がカメラを始めたきっかけ。

それは、祖母の入院だった。

お見舞いに行くと、いつも畑の野菜の様子を俺に聞いた。

俺はその度に野菜の記録を写真に収めて、祖母に届けた。

近所で出会った猫や、道端で見つけた見た事の無い草花、その日の空、季節の花、景色。

祖母は、俺の写真1枚1枚を見て、感想を言ってくれた。

写真の腕も褒めてくれた。

祖母との大切な大好きな時間だった。


祖母がいなくなり、数年後、父からある提案を持ちかけられた。

「寛也にも母親が必要だろう」と

「結婚したい人がいるんだ」と

俺は、受け入れる事ができず、頑なに拒んだ。

思えば、あれからかも知れない。父との間に溝が出来たのも。

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