第2話 俺とカメラ
いつの日からか、携帯のカメラでは物足りなくなり、春休みに必死で働いたバイト代で購入した一眼レフカメラ。
自然や動物
空や流れる雲の、一瞬一瞬の表情に同じ物はなく、それを残しておきたくて誰かに見てもらいたくて(?)
美しいと感じるものはカメラに収めて来た。
その日も、昼休みに中庭で昼飯を食べ終わった後、カメラを覗き込んでいた。
春は草花が咲き誇っている、誘われてやって来る蝶々やミツバチもまた面白い。
すると、藍川がやって来た。
「またここにいるんだね」
「いつもここでお昼食べてるの?」
「名前、何だっけ?2年生だよね?」
ギリギリまで、カメラを覗いていたが、ようやく藍川のほうに焦点を移して答える。
「...大瀬寛也、2年だよ。」
「あのさ、こないだの件だけど、、、」
「何撮影してるの?ちょっと見せてよ!」
人の言葉を遮るようにして、俺からカメラを奪った。
「すご〜〜い!!!キレイ!!!」
青空
雲
虹
たんぽぽ
菜の花
桜
川沿い
木漏れ日
カメラを購入してから、撮り溜めた写真達、1枚1枚をゆっくり見ながら、藍川が感想を言っている。
素直に、真っ直ぐに批評をつけてくれるので、ありがたかった。
春先に買ったカメラだったが、数百枚は撮影していた。
誰かに見てもらったのは、久しぶりだったかもしれない。不思議と悪い気はしなかった。
放課後、藍川の携帯を見に行く事になった。
学校から電車に乗って5駅
アーケード内にある携帯ショップに向かった。
途中、藍川はいろいろなものに興味を示す。
「大瀬!見て!あれ!」
指さした先を見ると、ショーウィンドウに飾られた変な顔したぬいぐるみ、、、
その変な表情の顔真似してみたり。
「こんな時間に行列出来てる。あそこのラーメン食べた事ある?」
美味いと評判のラーメン屋、午後4時すぎだと言うのに、行列出来てる。
「ラーメンと言ったら、味噌派?醤油派?」藍川の質問に俺が"とんこつ"と答えたら、変な顔していた(笑)
キッチンカーで販売されている、たまに見かけるメロンパン屋の前で足を止めて見ていたので
「食べれば?俺は食べないけど(笑)」
と、言ったらしぶしぶ諦めた様子だった。
なんだかんだで1時間くらいかかってショップに、たどり着き、店内を見て回ったが、、、高い。
結局、藍川型落ちを選んで、金額も半分にまけてくれた。助かった。ちょっと以外だったけど、てっきり最新機種を買わされるかと思って、内心焦っていたので、安堵した。
お詫びに帰りにハンバーガーをご馳走させて(?)頂いた。
食べている間も、藍川は終始しゃべり続ける。
ハンバーガーを実に美味しそうに頬張りながら。
先生の話題、友達の話、失敗談、etc.....クルクル変わる表情と話題について行けず、俺はただただ相槌を打っていた。
駅で解散し、それぞれの帰路に着く。
俺の家は、最寄り駅から徒歩30分位で街から離れた静かな場所にあった。
鞄から鍵を取り出し、玄関のドアを開ける
「ただいま」
ポツリとつぶやく
少し薄暗くなった廊下に自分の声だけが響く。
電気を付けて、リビングのテーブルに鞄を置き、静かにため息をつく。
俺は親父と二人暮しで、その親父も仕事でほとんどすれ違いだった。
晩ご飯を食べた後は部屋に籠り音楽やテレビを楽しみながらひとりで過ごす。
それが当たり前の日常だった。
今日は、忙しなかったけど充実した一日だったと、振り返る。
誰かと過ごす時間、誰かと食事をしたのは何年ぶりだったかと、自分は孤独であった事を思い出した。
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