第二十ニ話 取りあえず試してみるしか

「結局、アーチェを殺せたのは誰かだけ考えればいいんだろ」


 ガラハドが苛ついたように声をあげた。


「そうだけど、じゃあ誰なら出来たんだ?」

「それだ、そう言えばな、一人だけ、途中で出てったヤツ、いたよな」


 いたっけ?


「リカルドが、気持ち悪くなったってな」


 ああ、確かに。


「待ってよ、僕はすぐ帰って来ただろ?」

「でも他にいねーだろ!」

「そんな、無理だろ、あの時間で女子寮まで行って戻ってくるなんて。しかもアーチェさんを、こ、殺してから、吊り下げるんだぞ!? ガラハドくんなら出来るのかよ!」

「知らねーよ、んなこと! そうなってんだから出来るんだろ」

「僕には無理だよ!」

「なら誰なら出来んだよ!」

「知らないよ!」

「ひとつ、いいですか?」


 ガラハドとリカルドの言い合いに、メローネが割り込んだ。


「リカルドさん、貴方先ほど、扉止めの鉛筆が乱れていたとおっしゃいましたね?」


 リカルドは思い出しながら答えた。


「ああ、確かにそう言った」

「なぜ昨日、鉛筆が綺麗に揃っていたことを知っているのですか?」

「え? それはだって、誰かが揃えただろ?」

「ええ、わたくしが揃えましたので」


 リカルドの頭の上に疑問符が浮かぶ。


「何が言いたいんだ?」

「わたくしは、みなさんが扉から離れ、戻り始めたとき、一番最後に何気なく気になって、気まぐれに揃えたのです。そのあと、わたくしよりもあとにそれを確認した方はいませんでした」


 リカルドの頭の上の疑問符は消えない。


「貴方、いったいいつ、揃った鉛筆を見ましたの?」

「それはだって、みんな知ってただろ?」


 リカルドが他の人を見回すが、同意する人はいない。

 彼はルカに視線で問いかけるが、彼女は悔しそうにも悲しそうにも見える表情で、首を横に振った。


「……どういうこと?」

「唯一、知っている方がいるとすれば、それはアーチェさんを殺すために扉を開けた、犯人、だけでしょう」

「そ、そんなわけ……」

「ルド……」


 ルカがリカルドを見ながら呟く。希望を絶望で塗りつぶされた、この世の終わりを見たかのような顔をしていた。


「もう一度おたずねします。貴方はどこで、揃った鉛筆を見たのてすか?」

「それはだって、僕は……いつ? どこで……?」

「語るに落ちた、とかそういうやつか?」


 ガラハドが言う。やっと犯人に目星がついたせいか、にやにやとしている。


「ま、待ってよ、本当にルドにそんなことが出来るのか、まだわかんないじゃない」


 ルカが立ち上がって訴える。


「あたしは無理だと思う。あの時間じゃ女子寮まで往復するだけでも無理だよ」

「じゃあ、実際にやってみるか」


 なにかメモ書きをしていたエースが、思ったより気楽なノリで言った。

 そこにキリがのってきた。


「いいね、やってみよっか。じゃあ、足の速さに自信があるのは誰かな?」


 突然の検証に戸惑う一同。ハヤテがキリにたずねる。


「なにをさせるつもりなの?」

「とりあえず、リカルドくんはあのときの行動を再現して。それと同時に誰かが女子寮まて走って往復。それで実際に犯行可能か確かめてみようよ」

「ならばわたしが行きましょう」


 ナツキが手を挙げた。


「とりあえず、往復するだけで良いのですか?」

「そうだね。それでナツキさんの方が先に帰ってきたら、その時間の差の中で犯行が可能か考えよう」


 うんうん、と考えながら頷くキリ。


「一応、もう一人付いて行けない? ナツキさんが嘘をつくとは思わないけど、疑う余地はない方がいいでしょ?」

「だったら僕が行くよ」


 ハヤテが手を挙げた。


「メローネさんが行くよりも、疑われないでしょ?」


 ナツキとメローネのペアでは、また口裏を合わせていると言われると説得力に劣るってことだろう。


「お前が、ナツキに付いて行けんのか?」


 ガラハドの疑問ももっともだが。


「大丈夫、ちゃんと準備すれば」

「次は、リカルドくんと一緒に行く人ー」

「それは俺が行くよ」


 エースはキリの言葉に返事をしながら、書いていたメモを彼女に渡す。


「うん、それじゃ早速やってみようか」


 リカルドとエース、それからナツキとハヤテが席を立つ。

 この検証でなにかが判ればいいのだけど。

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