第十七話 話し合いは続く

 ◇◆◇◆◇


 ガラハド。17才。《熱血》


 彼のいた国は、比較的日常に近いレベルでの善と悪の抗争が激しい国だった。

 わかりやすく言うと、任侠、不良と、刑事、熱血教師、その他モロモロ、いろんな思惑が交錯する、そんな世界の出身だった。


 彼自身も例に漏れず、不良学生として学校生活を送っていた。その中で野球に出会い、そのまま順調にいけば、野球で更生する展開か、もしくはそのまま不良としてヤクザに目をつけられ、義理と人情を大事にしながら法律は破るという独自の規律のもと、暴力と裏切りの世界にどっぷり浸かっていくのか。そうなるはずだった。


 しかしそこで熱血教師の目に止まった。彼には見込みがあり、こことは違う学校、環境でちゃんとした教育を受ければ、悪の道に入らずとももっと上のレベルを目指すことができるだろうと。

 ガラハドは、二つ返事でその話に乗った。別に深い考えは無かった。単に誰も知らない方法で、手っ取り早く強くなれそうな気がしたからだ。


 自身が今後どっちの道に進むにしろ、強くなければ生き残れない。

 彼の目的はいたってシンプルだった。


 ◇◆◇◆◇


「じゃあ次はオレが言うわ」


 ガラハドが立ち上がった。


「オレは昼寝しようと思って屋上にいた。そんときたまたまハヤテも一緒だったわ。なあ?」

「あ、うん。そうだね」

「邪龍が出てくる五分くらい前に、寝れねーからってハヤテを追い出したんだ。だからオレらも犯人にはなれねーよな」

「うん……五分。それくらいだったかな」


 自信満々なガラハドだが、ハヤテの態度は曖昧だ。

 ガラハドが座ると、リカルドが疑問を投げかけた。


「ちなみにハヤテくんはそのあとどこにいたんだ?」

「え、いや、あの、僕も他のクラスを見て回ってたりして、いろいろしてたから」

「それもそうだけど、邪龍騒ぎのときにはどこへ?」

「それは……」

「言えないのか?」


 ハヤテは悩んだすえ、自分のステータスウインドウを一部公開にして表示した。


「僕の本当の《役割ロール》は、これなんだ」


 そこには《隠匿》と書いてあった。


「この《役割》の性質上、あんまり詳しく言えないんだ。人に知られるとペナルティが入るみたいで、《役割》の詳しいことも言えないし」


 ハヤテは申し訳なさそうにしている。


「でも、カルロくんを殺してなんかいない。これだけは信じて欲しい」

「だからあの時間、ハヤテはオレと一緒にいたんだから、問題ねーだろ」


 ガラハドが割って入ると、エースが答えた。


「わかったよ。とりあえず話を進めよう。な、リカルドくん」

「別に、ハヤテくんを疑ってたわけじゃないんだ。ちょっと気になっただけで。だからもう大丈夫だよ。ありがとう」

「じゃあ次は俺な」


 エースが話し始める。


「俺は、別のクラスの知り合いと話してたんだ。としか言いようがないんだが、それだと証拠にならないって言われると、反論できない」

「でも、昨日アーチェちゃんが、それを見たって言ってなかった?」


 とはルカの意見。


「そうなんだけど、結構長い間話してたからなぁ。見かけたのが直前じゃなかったら意味がないし、アーチェさん本人に確認しないとはっきりしないな」


 と、自ら言っていくスタイル。あとから「アリバイ不成立じゃん」なんて言われるよりは印象が良いか。

 そして残ったのはキリだ。


「ボク、で最後かな」


 彼女は考えをまとめるためか、少しだけ間をとって話し始めた。


「別に新事実があるわけじゃないんだけど、ボクは昨日、借りてたカーテンと暗幕のうち、余ったやつを返すために準備室に持ってったんだ。そしたら意外と人が多くて時間かかっちゃって。補習に遅れると思って急いで戻ってたら、ちょうど教室の前を通りがかったときに、カルロくんがなにか喋ってるのが聞こえてきたんだ。具体的になにを言ってるのかはわからなかったけど、喧嘩っていうか、相手をせめてるような感じだったの」

「相手は誰だかわからなかったんですの?」


 メローネの質問は誰もが思うことだった。


「声は聞こえなかったし、窓も全部閉まってたから」


 廊下側の窓は、扉についているものも含め、全てがすりガラスだった。


「その後は、急いで体育館に行ったんだけど、思ったより早くついちゃって、先生が来ないまま邪龍騒動で飛び出したの」

「その話が本当なら、犯人以外で最後にカルロくんを確認したのはそのときってことか……?」


 それを聞いてエースはキリを心配して見ていたが、本人はあまり気にしていないようだ。


「あのときは急いでたからなぁ。中を見るのは無理だったよ」


 カルロが……友達が死ぬ直前に居合わせ、もしかしたら助けられたかもしれない。そのことを後悔はしているようだが、傷付いているかといえば、それほど気にしているようには見えない。

 《大災厄》として、人の死に関わりすぎてしまった影響か。


「っつーことはだ、結局アリバイがないのは誰なんだ?」

「一人でいたのはエースくん、キリさん、ハヤテくん、ガラハドくん、そしてアーチェさん、ですね」


 そう言ったのはナツキだ。


「はあ? オレとハヤテは一緒にいたっつってんだろ!」

「時間もはっきりしませんし、途中で離れたのでしょう? 証拠になりません」

「だったら! テメェら二人もあっちの二人も、仲いい同士じゃ信じられねーだろ!」

「メローネ様が嘘をついていると!?」

「テメェをかばってんのかもしんねーだろ!」

「落ち着け二人とも!」


 エースが割って入る。


「結局、しっかりとしたアリバイがある人は居ないってことでいいだろ。情報が少なすぎるんだ」


 ナツキは、不満顔ながら一旦喋るのをやめた。

 ガラハドは少しだけ考えて。


「そういやあ、たまたま下を見たとき、キリが体育館に入るのは見えた。だからオレは、ハヤテとキリだけは信じてやんよ」


 それだけ言って黙った。

 教室内に、静寂が訪れた。興奮が落ち着いた反動でみんなが冷静になり、会話の勢いまでなくなってしまった。時間にすれば十秒ほどだったろうが、やけに長く感じた間だった。

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