第十三話 邪龍
エースとナツキ、少し遅れてライダーが、やっと邪龍へと到達した。
エースが飛び上がり、その太い胴体に斬りつける。邪龍は鉤爪で受け止めるが、それを簡単に切り飛ばした。
続けてナツキが低い位置で拳を構える。地面を踏みつけると同時に繰り出す拳は、大砲の直撃に似た轟音を響かせる。衝撃に邪龍の巨体が震えた。
邪龍が巻いたとぐろを解き、その巨体を上に伸ばすと、鉤爪がワキワキと蠢き、その周囲に力場が発生する。力場により空間が揺らめくと、闇色の杭が無数に出現した。それが長い胴体の周囲をグルグルと回転。まるで巨大なミキサーだ。
直接攻撃をするにはかなりリスキーな状態となったが、代わりに岩の砲弾はほとんどなくなり、後衛の安全度が格段に上がった。
エースが地を蹴り、手近な胴体に接近する。邪魔な闇杭を避けてジャンプ、しかし別の闇杭が軌道を変えてエースに迫った。
エースは足の裏に瞬間的に小型の反発魔法陣を展開。空中にありながら別方向へジャンプ、闇杭を避けつつ邪龍の胴を薙ぐ。想像よりも数段硬い鱗を切り裂き、ダメージを与える。
ナツキも続いて攻撃に向かい、迫る闇杭を雷光をまとう拳で殴りつけるが、反発して吹き飛ばされる。地面に叩きつけられる寸前で、遅れて来たライダーが受け止めた。
ナツキとライダーは並び立ち、鏡のように左右対称に構えた。
「猛虎迅雷拳……」
ナツキの両手に放電が起こる。
『
マテリアルカードにより再びプロテクターの色形が変わる。茶色のゴツい、破壊力重視の攻撃特化タイプだ。
二人が同時に突撃。お互いの死角を補い合い、地を滑り、背を蹴って跳び、連撃を繰り出す。まるで長年の相棒のような連携を決める。
それらを見てエースは考える。
《剣士》エースの真骨頂は、アイテム欄から取り出す様々な武器で、状況に応じた攻撃で最大効率化したダメージを与えることだ。だが、ただの剣一本しかない現状、レベル90オーバーのステータス差を考えればそれでも負けることはないだろうが、どうしても時間がかかる。
さらに、できれば自分の強さをクラスメイトには隠しておきたい。圧倒的なレベル差が、今後のクラスのバランスを崩壊させる原因になりえそうだからだ。
それでも誰かが怪我をしたり、それでなくても周辺に被害が出るようならそうも言ってられないだろうが。
そんなことを考えていると、邪龍に変化が起こった。
背にあるいくつもの翼が光りだし、エネルギーが集中する。同時に骸骨に似た頭部の前に魔法陣が出現。集まったエネルギーがそこに集約され、光弾となって膨れ上がる。そのまま放たれれば、死人がでるどころか校舎が半壊しかねない。
「マジかよ!?」
さすがに秘密がどうこうなど言ってられなくなった。エースは剣に意識を集中し、振りかぶる。
「青雲剣衝……」
必殺技を放つ寸前、どこからか火球が飛来し、邪龍の頭に直撃、炸裂した。
衝撃に邪龍の頭が揺れ、魔法陣が崩壊。エネルギーの光弾は霧散した。
直後、飛来した巨体が邪龍を吹き飛ばし、押さえつけた。
「ダオール先生!?」
それはいつも見ているダオール先生。その姿を邪龍と比べても見劣りしないほど巨大化させたものだった。
『コイツは先生に任せて、教室へ戻れ』
まさしくダオール先生の声。エースたちは、まるで怪獣大決戦のような戦いに巻き込まれないよう、出来る限り気をつけながら校舎へ向かう。
邪龍はわかりやすい脅威に、小さい者は完全に無視。だが、射出した闇杭や砕けた岩の破片、通り過ぎる翼や叩きつけられる尻尾などを回避しながらの避難となって、みんなバラバラになってしまった。
エースはなんとかキリと合流。吹っ飛んできたバスケのゴールを両断したり、偉人の銅像を叩き落としたりしながらなんとか校舎内に避難。三階の教室へと向かう。
教室に入ると、すでにリカルドとルカがいた。窓に並んで先生と邪龍の戦いを見ている。
「どんな様子だ?」
「先生の方が優勢みたい」
ルカが、言葉の内容とは裏腹に、真剣な声色で答えた。
見れば、邪龍がなにか攻撃をしようとすると、それに先んじるように先生が行動。邪龍が思うように動けないうちに先生の攻撃が決まっていく。
確かに先生の方が優勢のようだ。
教室の扉が開き、アーチェが入ってくる。
「ふええ、あ、キリちゃん! みんな! 大丈夫だった?」
「アーちゃんも、怪我はない?」
お互いに無事を確認しあう。まだ戻ってきてないクラスメイトは大丈夫だろうか。
次にガラリと扉を開けたのはガラハドだ。彼は右半身をなにかにぶつけたのか、学ランが汚れ、擦り切れている。右腕には切り傷があり、押さえる左手の指の間から血が流れている。
彼は教室を見回して言う。
「ちっ、あいつらとはぐれた」
「あいつら?」
エースの疑問には答えず、ガラハドはエースに詰め寄る。
「テメェ、今までダマしてやがったのか!」
なんのことだ、とは言わない。
「アレにダメージ入れたのテメェだけだろ。そんだけ強えなら」
そのとき外から轟音が響いた。
先生に巻き付いた邪龍が咆哮をあげ、全身から放電する。
先生の体表が焼ける。苦痛の声をあげ、しかし倒れることはない。
さらにその喉笛に噛み付こうとする邪龍の頭を、掴んで押し戻す。
そして大きく口を開ける先生。そこにエネルギーが集まり、強力な火線となって邪龍を貫いた。
「うわ、すごっ」
いつの間にか入ってきていたメローネが、らしくないセリフを吐いた。
「メローネ、窓から離れましょう、危ないです」
ナツキがメローネを引っ張って下がらせる。
確かに、窓際は危ないかもしれない。先生に任せて大丈夫そうだし。そう思ってエースは、キリを引っ張って一歩下がった。
教室の中を見回すと、なんだか室内が散らかっている。文化祭の準備のために教室の後ろに作業用のスペースを作って、飾り付けの材料や小道具を置いてあるのだが、それが普段より雑に散らかっているのだ。
「あ、これ!」
キリの指さした先にあったのは、入り口に置く用の鳥居の模型だ。それの足が片方、根本から折れている。
「おいおい、誰だよせっかく作ったのを壊したヤツァよ」
ガラハドがキレ気味に声をあげた。これを作っていたのがガラハドだった。
「揺れて落ちたとかじゃないの?」
「あれ見てみろや。花瓶は倒れてないのに、コイツが倒れるか?」
アーチェの意見に、ガラハドは教室の隅の細長い花瓶を指す。確かにそれは真っ直ぐ立っていた。
「それは、僕のせいなんだ」
リカルドが申し訳なさそうに申し出た。
「ちょっと移動させようとしたら倒れて折れちゃったんだ。一応、応急処置で止めといたんだけど」
「はぁ!? ザケンなテメェのせーかよ! テメェが壊したせいで」
ガラハドがリカルドに詰め寄る。今にも殴りかかりそうだ。
「待ってよ! リカルドはちゃんと直すための道具を借りに行ってたのよ!」
ルカがガラハドの前に割って入った。だがガラハドの怒りは収まらず、左の拳を振り上げた。が、その手をメローネが掴む。
「ガラ! 今はそんなこと言っている場合じゃないでしょう! 大丈夫よ、みんなで力を合わせれば文化祭までに十分間に合うわ」
そしてメローネは、ガラハドの右腕を掴んで言う。
「それに、傷の手当てもしないと。血の匂いでむせてしまいそう」
ガラハドの右腕から流れる血は、腕を伝い釘バットを伝い、床に赤い斑を描き始めていた。
メローネは自分のアイテム欄から消毒液や包帯を取り出すと、傷を治療した。
そうしていると、また扉が開いた。
「はぁ、はぁ、みんな、大丈夫?」
ハヤテだ。ずいぶん息を切らしている。
ふん、とガラハドは鼻を鳴らしてメローネの手を振りほどき、ハヤテの前に立つ。
「ハヤテ、今までどこにいたんだ」
「いや、ほら」
ハヤテは声を小さくし、ガラハドにだけ聞こえるくらいの声で言った。
「校舎裏が……心配で」
それを聞いて、はぁ、と軽くため息をつく。
「まあ、無事だったんなら……」
状況が落ち着いて見ると、外が静かになっていることに気づいた。見ると、邪龍も先生もすでにいなくなっていた。
「他に怪我をしている人はいませんか」
ナツキがみんなを見回して言う。
「血の匂いが消えない……。みんな改めて自分の体や近くの方をよく確認してください。興奮で怪我に気づいていない可能性があります」
各々、自分の体を確認していくなか、ナツキは匂いの元をたどっていく。
人の近くからは離れ、教室の後ろの方へ。
そうしてたどると、掃除道具を入れるロッカーに行き着いた。
なにかが引っかかっているのか扉が少し歪んでいるのか、なかなか開かない。ちょっと強めに力を入れて引くと扉が勢いよく開き、中身が倒れかかってきた。サッと思わず後ろに下がって避けた。
床に無造作に転がったそれは、カルロだった。
仰向けに倒れたまま、ピクリとも動かない。
その顔は、額に穿たれた穴から流れた血で汚れていた。
「キャーーーーー!」
ルカの悲鳴が教室内に響いた。
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