第十話 まだまだ続くダイジェスト的なアレ

 軽快な音楽とともに写真がいくつも流れる。


 次の写真は実技試験か、体操服になったみんながいくつもの的を前に準備運動をしている。

 地球とは違って、街道で魔物に襲われる危険があるため、必要最低限の戦闘能力も必須科目に入ってるのだ。


「準備ができた者から前に出ろ」

「じゃああちしから! アーチェ行きます!」


 ダオール先生の声に返事をして前に出たアーチェの両手には、改造エアガンが一丁づつ握られていた。

 二丁拳銃を構えて、深呼吸一つ。


「『連射ラピッドファイヤー』!」


 《技能》を発動させて引き金を引く。

 通常のエアガンなら小さなプラスチックの弾が出るところ、アーチェの改造エアガンからは、金属の弾が発射された。

 それは技能によって加速され、次々と的を射抜いていく。

 十枚ほどの的のほとんどを撃ち抜いて止まった。


「いいだろう。次」

「じゃあ俺が。エースです」


 前に出たエースは当然のように『偽りの達人マスターフェイク』を構える。


「おい、それいいのかよ」


 ガラハドが声を荒げるが。


「かまわん」


 ダオール先生の一言で黙ることになった。


「ただ、ならばこうするか」


 先生が目の前に表示したウィンドウを操作すると、的の並びが縦並びになり、同時に的に布がかかって『◎』の図柄を隠す。


「じゃあ行きます」


 エースが走り出す。的の間を駆け抜けつつ、その右手の剣が次々と的を貫いた。


 『偽りの達人マスターフェイク』は、布越しでもその付与魔術エンチャントの効果は発揮され、意識しなくても的を外すことはない。そのぶん多少体勢やタイミングが不自然になるものの、エースにとってはちょうど良い手加減だったろう。やろうと思えば、一歩も動かないで、なんなら刃も抜かないで、一瞬にして全ての的を真っ二つに割ることもできる。それを隠すには都合がよかった。


 終わったあと、何人かが近づいてきた。キリとリカルドとルカだった。


「エース! ボクにもそれ貸して!」


 キリが両手を差し出す。そこに『偽りの達人マスターフェイク』を乗せた。


「僕たちもいいですか?」

「いいけど、多分、使わない方がいいと思うよ?」

「えー? キリちゃんはよくて、わたしたちは使っちゃ駄目なの?」

「使うのはいいよ。でも誤魔化しきれないんじゃないかなと思うんだ」


 リカルドとルカはお互いに顔を見合わせる。

 先生は教育する側として、生徒のステータスは全て把握しているだろう。だからこそエースがインチキアイテムを使っても問題なかったのだ。

 そしてキリの方も、ほぼ毎日召喚術の補修をしていることもあり、そこらへんも加味して判断されるだろう。


 それに対して、リカルドは(と多分ルカも)戦闘向きの役割でもなく、元々苦手分野だろうから、単純にインチキしたら認められないんじゃないかと、そう思ったのだ。素直に実力で勝負した方が印象もいいだろう。


「燃えろ! オレの魂よ!」


 ガラハドが《技能スキル》を使うと、全身に陽炎かげろうのようなオーラをまとう。


「オレの進化した《役割ロール》、《熱血》の力を見やがれ!」


 確かに熱血の名に違わぬ燃え演出。いや、物理的に熱気を感じる。

 勢いのまま、的を釘バットで砕くように突き進む。


「わたくしも、結構得意なんですよ、こういうの」


 メローネは軽やかなステップで的の間をスルリと抜ける。踊るように流れるように通り過ぎたあとには、素手で叩き割られた的が転がる。


 素手で!?


 その後も、ナツキは危なげもなく、ハヤテも意外と軽い身のこなしで試験をこなす。

 カルロは謎の術で大雑把に的を破壊するという、謎の戦闘力を発揮していた。謎だ。


 結果、ほとんどの生徒が合格だったが、リカルドとルカだけ再試験になった。やっぱりね。


 そこで場面は写真に戻る。


 が、すぐに次の写真がアップになって動き出す。


 それは実戦訓練のようすだ。

 グラウンドに四角く線で区切られた中で、一対一で対戦している。

 その四角い範囲は結界になっていて、ダメージのほとんどを軽減する。

 対戦の組み合わせはクジで決まったようだ。


 エースVSカルロ  勝者エース


 地面に仰向けで大の字に横たわるカルロを、エースが見下ろしている。


「我が左腕に封じられし力さえ解放できていれば……!」

「俺が言うのもなんだけど、結構いい線いってると思うよ」


 ナツキVSハヤテ  勝者ナツキ


「当然の結果ですね。あんなところを掴もうとするからです」

「人聞きの悪い。投げ技狙っただけです。掴んだ瞬間に電撃は反則ですよ」


 当然、反則ではない。


 メローネVSガラハド  勝者メローネ


「っんでオレがこんなヤツに……!」

「ふふっ。わたくしに手を届かせたかったら、もっと頑張らないとね」


 そうメローネは余裕ぶっているが、内心はギリギリでヒヤヒヤだった。

 しかし、なんとなくメローネのガラハドを見る視線に、興味の色が見えるようだった。


 キリVSルカ  勝者キリ


 ルカは、これまで一度も下ろしたことのないリュックを下ろし、隠していた羽を出していた。光沢のある、皮膜の羽。空が飛べそうなほどは大きくない。能力のコントロールをできるようになったのだろうか?


「ねぇ、わたしに力を貸して? お、ね、が、い♡」

「ちょっとガーちゃん!? 主はボクだよ!」


 キリが召喚した象に似た頭の魔獣が、二人の間でオロオロしている。

 最終的には召喚者に従ったものの、ルカの力の底知れない可能性が垣間見える一戦だった。


 リカルドVSアーチェ  勝者リカルド


 剣を構えるリカルドと二丁拳銃のアーチェ。勝負はアーチェに軍配が上がるかと思われたが。


「なんで!? 当たってないの!?」


 当たってないわけではなかった。だがそれはダメージの小さいものだけ。危ないものは出来れば避け、もしくは剣で弾いて防いでいた。

 さっきのルカもそうだけど、リカルドも今回かなり本気で臨んでいるみたいだ。前回の試験がアレだったからかな。

 そのうちアーチェの拳銃が空撃ちをした。弾切れだ。


「今だ!」


 リカルドはリロードのスキを与えない。一気に前に出ると連撃を叩き込む。勝負は決まった。

 悔しそうなアーチェにリカルドが話しかけた。


「痛みが軽減されてなかったら、多分動けなくなってた。実戦だったら負けてたよ」

「まだまだ改善の余地ありありだぁ。威力も上げないと」


 弾道曲げられないかな、なんて呟いている。


 そんなところで場面は終わる。

 そしてその後もいろんな写真が流れてくる。


 『校舎裏で、コロマルと名付けた、少し大きくなった子犬と戯れているハヤテとガラハド。


「おうおう、ちったぁ大きくなったんじゃねーか?」

「でも成長っていうよりは、肥満気味じゃない?」

「そうか?」


 ガラハドがハンカチで、汚れた子犬の顔を拭ってやる。


「もしかして、決めた以上におやつあげたりしてないよね?」

「いっぱい食って強くなれよ」

「もう、駄目だって。健康に良くないんだから」


 そんなハヤテとガラハドのやりとりになんとなく癒やされる』


 『休憩時間の教室、カルロが後ろの席のハヤテとカードゲームをしている。


「よしっ、『フォームチェンジ 獣』から『緑の波動』で攻撃だ!」

「それは『天道虫の犠牲』で打ち消すよ」

「持ってんのかよ! エンド」


 なんだかよくわからないが、盛り上がっている。


「アンタップ、ドロー。よし。……まずは『フォームチェンジ 鎧』」

「それは……通しだ!」


 リアクションの大きいカルロに対し、静かにゲームを進めるハヤテ。


「なら『光のオーラ』と『最後の勇気』」

「うう。い、いいだろう。通しだ」

「打ち消しを持ってそうなのはブラフと見て、『蒼龍剣』を装備してアタック!」

「はぁっ、負けたーー!」


 机に突っ伏すカルロ。ハヤテはカードを集めてまとめている。


「今回は最初の手札が悪かった! もう一回だ!」

「何回やっても同じだよ」


 そんな楽しそうな様子を、ナツキがチラチラ見ている。

 この場合、気になっているのはゲームの方なのか、それとも……。』


 『プールの授業で水泳を習うなか、場違いに可愛い水着のメローネとルカ。泳いでいるのか溺れているのかわからないアーチェとリカルド。バスタオルを肩から羽織ってプールサイドに座るカルロ』


 『河原で大の字に寝転がるガラハド。なぜかボロボロになっている。それをすぐそばで見下ろしながら、何事か話しかけるメローネ』


 『夏祭り、屋台の並ぶなかを浴衣を着て歩くリカルドとルカ。そして、おお!? ガラハドとメローネが一緒に並んでいる。しかもメローネがガラハドの袖をちょんと摘んでいる。これはもしや? ナツキとハヤテとキリは、お互いに買った食べ物を分けあっている。その後ろでは射的で無双した結果、出禁になったアーチェ。風船釣りでとった水風船を両手につけて振り回すカルロ』


 『明かりを落とした自室で何か書き物をしているナツキ。メローネはもう寝ているようだ。

 ふと横を見ると、掃除などの家事をしている家精霊ブラウニーがお茶とお菓子を持って来るのに気づいた。家精霊とは、《王女》の技能で一時的に喚び出した精霊で、命令を完遂すると消えてしまうが、煩雑な家事を任せることのできる意外と重宝する精霊である。


 ペンを置きノートを閉じたナツキは、紅茶のカップを持ち、クッキーを皿にいくつか移すと、窓際に椅子を置いて座る。少しだけメローネを見たあと、夜空を見上げている。物憂げなその横顔はいったい何を思うのか。


「こんな時間におやつを食べる自由。はぁ……」


 そう言ってクッキーを摘む』


 太るぞ。

 そんな場面が、写真となって次々と流れていた。


 いやそんなことより、ここで一つ重大な問題が判明した。


 シリーズのメインキャラのはずのエースがほぼ空気。


 次からはもっと、出番が増えるかなぁ。

 増えるといいなぁ。




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