第八話 は? 爆発しろ!
ダオール先生が持ち物をまとめながら思いついたように言った。
「そういえば、この中に、通常の授業とは別に、先生の特別授業を受ける必要のあるものがいる」
それを聞いた全員の意識が、一人のもとに集まった。本人は動きを止め、先生を睨んでいる。
そう、先生にいきなり殴りかかるなんて問題行動を起こした、スポ根不良ガラハドだ。
しかし、先生はガラハドを見ていなかった。
「キリカド、明日から放課後残るように」
「ボク!? なんで??」
キリの叫びには応えず、先生は扉を開けて出ていった。
先生が教室を出たあと、クラスメイトたちは各自のことを始めた。
不良のガラハドは真っ先に教室を出ていった。ハヤテとカルロも帰ろうとしている。女子たちは逆にまだ残るつもりのようだ。
特別授業のショックでふにゃふにゃになっているキリに、メローネが話しかけている。何かしでかしたのかと聞いているが、本人には心当たりがないらしい。
エースはなんとなく察していた。多分、キリの召喚士としての能力のことだろう。この学園に入ってからは『大災厄』の原因となった、そのあまりに強力過ぎる能力はほぼ完全に制限されているようだが、学園から出てしまうとまた元に戻ってしまう。その力を制御する方法を、特別授業として鍛えるつもりなのだろう。ほとんど感覚的に『災厄』級の存在を
だが、能力を制限されたここでなら一から術の制御を学べるし、相手がドラゴンであり先生であるなら、強力な術の制御を学ぶのにこれ以上の適任はいないだろう。
アーチェは、自分の前の席の遅刻少女ルカに声をかけた。
「ねえねえ、ルカちゃんだっけ。あちしはアーチェ。よろしくね」
「あ、はい! よろしくお願いします!」
「そんなに固くならなくていいって、あちしたちもう友達なんだから」
相変わらずのアーチェのコミニュケーション能力。距離の詰め方がハンパない。いや、一方的なだけだけど。
「ルカっちさあ、なんでリュック背負ったまま座ってんの?」
いきなりの「っち」呼びに、戸惑うルカ。いきなり至近距離に詰められた友達関係に、慌てて答えようとする。
「これはちょっと、降ろせないと言うか、降ろしたくないと言うか」
ルカは右に回転し、椅子に横向きに座った。エースたちのいる窓側に背を向ける方向だ。
「そんなに大切なものが入ってるの? ちょっと見せてよ」
「え、あ、ちょっと! ダメ!」
アーチェは手を伸ばし、リュックの左側から時計回りにチャックを引っ張る。
その手がリュックの真上、半分ほど開いてしまったところでアーチェの手は掴んで止められた。
「止めなよそういうの」
キリの前、ルカの隣の席の、リカルドだった。ちょうど帰ろうと立ち上がったところのようだ。
「嫌がってるだろ」
アーチェはキョトンと見上げていた。
「そっか、ごめんね」
アーチェは素直に謝って、手を離した。彼女に悪気があるわけではないのだろう。単純に他人との距離感が一般の人より近いのだ。
「ふふん、さすが《リーダー》だね」
「そういうんじゃないよ。それに僕のは《読む者》だから」
アーチェの会話の矛先が向かってきそうになると、リカルドはそれを避けるようにその場を去ろうとする。
「あ、あの、ありがとう」
椅子に座ったまま、首で振り返りながらルカが言う。
そのとき、その事故は起こった。
それは普通ならなんでもないことだった。しかし、このあとの顛末を考えると、それは事故と呼ぶしかないほどの出来事だった。
それはただ、ルカのリュックの口がハラリとめくれただけだった。
それによって、その中身が見えた。角度的に、リカルドにだけ。
途端に、リカルドの顔が真っ赤になってしまった。
「え、あ、なに、なんで?」
「あ、ごめんなさい!」
ルカが慌てて後ろに手を回し、リュックの口を閉じる。
「み、見た?」
「ご、ごめん。でもあれはいったいなんで?」
「ちょっと来て!」
ルカはリカルドの手を掴んで引っ張り、そのまま教室を出ていってしまった。
教室内がしんとする。
当事者のアーチェはもちろん、その騒ぎを聞いていた他のクラスメイトも、何事かと動きを止めていた。
廊下からかすかに二人の言い争うような声が聞こえてくる。
誰からともなく廊下側の窓を開け、ようすをうかがっていた。
廊下の曲がり角の先から聞こえてくる声は、なにを話しているのか具体的にはわからなかったが、言い争う勢いは徐々に収まり、最後にはなにも聞こえなくなった。
二人が戻ってきそうな気配を感じて、みんな窓を閉じて元に戻る。
ガラガラと扉が開き、二人が入ってきた。
お互いに手をつなぎ、なぜか照れくさそうだ。
リカルドが口を開いた。
「あの、僕たち、付き合うことになったから」
一瞬の間のあと。
「えーー〜〜〜!?」
そう叫んだのはアーチェだ。
他のみんなも、叫びこそしないものの、それぞれで驚いているようだ。
「な、なんでそうなるのよ! そのリュック? その中なんなのよ!」
「この中はね、実は、わたしの羽なの」
「は、はね?」
「わたし、夢魔族なの。でも能力の調整がうまくできなくて。だからまあ、しょうがなくよ。あんまり迷惑もかけられないし、悪い人でもなさそうだし」
言っている内容がふらついているが、つまり魅了の術にかかってしまったリカルドと、責任をとるために付き合う、そういうことらしい。
「羽を見せちゃうと魅了しちゃうの?」
「っていうか、全身を見せると使えるようになるんだけど、時々暴走するから、隠してるんだよね」
つまりあのリュックは、羽隠しのために背負っていると。
突然の急展開ではあったが、他に不満が出るでもなく、クラスで公認のカップルとなった二人。
まあどっちかといえば、(いったいなにを見せられているんだ?)って人の方が多かったわけだけど。
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