第三話 クラスメイト

 エースとキリ、ジョーの三人は、その辺の掲示板や構内図を見ながら進み、入学の手続きを済ませた。


 そしてそのとき、驚愕の事実が判明した。


 エースとキリは同じクラスだったが、ジョーだけ別だったのだ。


「なんでだよ! ザケンな、つまんねーことすんなよ!」

「そう言われましても」


 受付のお姉さんが困っている。


「クラス分けは学園が決めることなので。今から別のクラスに参加するのも難しいですし」

「まあまあジョーちゃん、ゴネたってしょうがないじゃん。別々のクラスでもお互い頑張ってこうぜ」

「頑張ってじゃねーよ、てかオレ様をジョーちゃんって呼ぶな!」


 そんな一幕もありつつ、結局ジョーとはここでお別れとなった。まあ、そうは言っても同じ学園内、どこかで会うこともあるでしょう。


 そのあと、寮までの案内図を頼りにたどり着いた自室に各自荷物を置き(エースのアイテム欄に封印されてしまったのでほとんど無かったが)、エースとキリは待ち合わせて教室へ向かった。


「えーと、A-2か。三階?」

「わー、なんだか緊張してきた。どんな人がいるのかな」

「かなり特殊な学園だから、どんなのがいても不思議じゃないぞ」


 確かに、登校中や校内で見るほとんどの生徒は人とあまり変わらない姿だったが、獣に近い姿の獣人や巨人や小人、中には地球外生命体としか見えない生き物もいた。


「できれば人間がいいなぁ」


 そう言いながら、キリは着慣れないブレザーの襟をつついている。この学園の、一応の制服だ。

 一応というのは、さっきの説明のとおり、人種によって体格が全然ちがうため、全員が同じ服装をするのが難しい。なので、用意された制服はあるものの、着ることは絶対ではないのだった。

 でもまあせっかくなので、エースとキリは着ることにしていた。


 目的の教室を見つけ、扉の前に立つ。お互い目を合わせた。エースもここに来て、少なからず緊張していた。

 教室の扉としてはずいぶん大きなそれに手をかけ、ゆっくりと横にスライドさせる。


 中の騒ぎが少し静まり、注目を集める。


「あ! キリちゃん! やっぱりそうやったんや!」


 突然大きな声で話しかけてきたのは、登校中に会ったあのアーチェだった。


「おんなじ時期に入るなら、もしかして同じクラスになるかもって思ったんだ」


 アーチェは嬉しそうに近寄ってきた。

 キリもパッと笑顔になる。


「わー、アーチェさん。そっか、クラスメイトだったんだ」

「良かった、知ってる人がいて」


 知ってるって、さっき出会ったばかりだが?


 エースが教室を見回すと、机は全部で十しかなかった。教室前方の黒板を底辺側とすると、『由』の形に並んでいる。そして教室内には、エースとキリ以外に六人の生徒がいた。


 黒板には席順が書かれていて、エースとキリ、アーチェの名前もある。エースは窓側の後ろの席、キリはその前だ。ちなみにアーチェはキリの隣、真ん中の席だった。


 他には、教室の後ろに各自の荷物を入れるための棚と、多分掃除用具入れのロッカー。あとは棚の上に細長い花瓶が置いてある。今は特に花は入っていなかった。教室の前には教壇と、窓際になにに使うのか分からない箱が置いてある。


「キリちゃん、さっきできた友達を紹介するね。この子がハヤテくん」


 アーチェが廊下側の真ん中の席に座っている人を手で示した。キリと同じか少し上くらいの男の子だ。おとなしそうな雰囲気で、文庫本を読んでいたようだ。


「ハヤテくん、こっちがキリちゃんで、こっちが……えーと、なんだっけ」


 覚えてないのかよ。


「エースだ。よろしく」


 ハヤテはうつむき加減で上目遣いに会釈してきた。様子から見るに、キリやエースと同じように、アーチェが強引に友達扱いしたのだろう。


 キリとアーチェが話している間、エースは他の生徒を見てみた。窓側の一番前には男子生徒が座り、この人も本を読んでいた。

 真ん中の列の後ろには、規定の制服を着た女子生徒が二人。一人は桃色の長い髪、もう一人はショートの黒髪。その二人の頭には猫耳があり、腰からは猫尻尾が出ていた。校門のところで黒服に囲まれていた二人だ。


 廊下側の後ろの席に座っている生徒は、座りながら足を机の上に乗せていた。そんな態度の男子生徒は、こちらも校門で見かけた、ジョーと絡んでいた不良だった。見れば釘バットも机に立てかけてある。

 エースは、げっ、と思ったが、相手はつまらなそうに天井を眺めているだけで、こちらには気づいていない。


 その彼の背後、教室の後ろ側の扉が開き、一人の男子生徒が入ってきた。


「おお、ここが我が新たなる学びの領域か。どうやらなかなかの曲者くせもの揃いのようだ。これからが楽しみだな」


 入ってきていきなりそんなことを言い出した彼は、一見普通の格好に見えたが、左手にだけ手袋をしていたり、左右で目の色が違ったりと、個性の自己主張を感じる。


 続いて前側の扉がゆっくりと開いた。


 そこから入ってきたのは、人間ではなかった。

 扉にかけられた手には大きな鉤爪が。幾分高い位置に見えてきた頭は、つやのない白い鱗におおわれた、爬虫類に似たそれ。長い首に続いてゆるりと入ってきた胴体には大きな翼。そして長い尻尾がなめらかに揺れる。

 大きさこそ体高二メートルを超えるくらいとはいえ、そのフォルムは明らかに。


「ドラゴン……」


 それは誰のセリフだったか、しかしそこにいる生徒全員の総意でもあった。

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