第55話 【4日目午後】 銀と鉄

「ミンキャ!(こんちくちょう!) あのウジ虫野郎が!」



男は悪態をつき、自身の指の爪をガリガリと噛み始めた。



「ラーメの奴め・・・生きていただけでも腹立たしいのに、戦争で活躍して英雄気取りだと?!  しかも女とイチャイチャしやがって!  大人しく俺の投剣で針山にされりゃいいものを!  腹立たしい! どいつもこいつも俺をイラつかせやがって!」



男は懐から投剣を一本取り出すと、力任せに地面に投げつけた。

ガリッという音をたてて、投剣は男の足元に刺さった。



「決めた・・・決めたぜ・・・ラーメ、お前は嬲り殺しの刑だ!

ただ嬲り殺すんじゃあ面白くない。

四肢を切り裂いて、芋虫みたいに地面を這いずる以外何も出来ない状態にしてから、お前がカタギの生活で関わった人間を一人一人拷問して殺してやる!


ああ! あの仏頂面が絶望で歪むのを想像するだけで楽しくなってくるぜ!

手始めにあの連れの女からだ!

何もできないラーメの前で、女の皮膚を剥いで、なめして、その革の上でお前を飼ってやる! 最っっっ高だな!おい!」


「・・・おい、何をしている?」



物陰で自分の世界に浸っていた男は聞き慣れた男の声で呼びかけられ、ハッと我に返った。

振り返ると、コルテロにアルジェントと呼ばれた男が呆れた顔をしながら傍に立っていた。



「お前が寄越してくれる投剣を追ってここに来たんだがな・・・ラーメと女はどこだ?」


「は、早かったな・・・ラーメの野郎は・・・ト、トリに乗って逃げて行きやがったんだ!」


「トリだと? 

あらかじめ準備していたのか・・・アイツらがトリに乗り込む瞬間を狙えなかったのか?」


「ち、違う!  ね、狙ったさ!  でも鳥乗した仲間がいてよ! 

そいつがラーメと女を一瞬で上空に連れて行っちまったんだよ!

お、俺の剣は全部ラーメに弾かれちまうしよ!」


「鳥乗した仲間・・・路地で煙幕弾を撃ってきた奴だな」



男は懐から煙草を取り出すと、部下の話を聞きながら火を付けた。



「そ、そう! きっとそうだ! 俺もそう言おうと思っていたんだ!」


「それで、そのトリはどっちに向かったんだ?」


「南に・・・いやちょっと西よりだったな。  南西の方だ」


「南西・・・海側・・・港の倉庫がある方角だな」



男は紫煙を吐きながら、思考を巡らせた。



(ったく、どいつもこいつも結局使えない。

まともに考える頭を持った人間が俺一人というのは・・・やはり骨が折れる)




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