第53話 【4日目午後】 女性の運び屋

「何してやがんだ! ここは飛行禁止区域だぞ!」



建物の窓から住民が怒鳴る声が聞こえる。

トリは人間3人分の重さをものともせず、力強く羽ばたいて上昇していった。


やがて地上からの銃弾が届かない高さまで来ると、飛空士は手綱を引いて上昇をやめ、緩やかに滑空を始めた。

ひとまず敵の脅威が去ったことに、コルテロは肩を撫でおろした。



「やあやあコルテロ! 怪我はないかい?!」



頭上から声が聞こえてきた。

見上げると、見知った顔が鞍から身を乗り出して、こちらを覗いていた。



「アリア! 助かった! ありがとう!」


「おやおやおや?」



トリの肩から体下を覗き込んでいるアリアは、ゴーグルを額にずらし、わざとらしく口に手を当てた。



「あのムッツリさんのコルテロが女の子を連れてるじゃない!

私の誘いは毎回断るクセに!」


「アリア! こいつを上にあげる! 手を貸してやってくれ!」


「つれないなぁ・・・はいはい。  ほら、おいでお嬢ちゃん」



コルテロは下から、アリアは上からブルシモを鞍の後席へと引き上げた。



「ハァ、ハァ、死ぬかと思った」


「おや?お嬢ちゃん? もしかして鳥乗経験ある?」


「は、はい・・・少しだけ」


「だよねえ! 鞍の乗り方が様になってるし、ちゃんと安全帯掴んでるし」


「上は大丈夫そうか?  俺も上に・・・」


「コルテロ! 会社に迷惑かけた罰だよ! 

着くまでそこでお人形みたいにぶら下がってな!」


「・・・・すまない」


「嘘嘘! 会社ではお互いのミスをカバーし合うものでしょう!

それに、どのみちもう数分もすれば着くから、もうしばらく我慢してて」



ブルシモは2人のやり取りを聞いていて、どうしても気になることがあった。



「あの、すみません」


「ん? 何?」


「女の人ですよね?」


「わたし? イケメンの男に見える? だったら嬉しいけど」


「そうじゃなくて・・・何というか・・・運び屋の格好をしているので」


「確かに、運び屋って男がなるものだよねぇ。

危ないし、肉体労働だし、拘束時間長いし、ムキムキの男たちに舐められちゃいけないし・・・」



アリアはトリの毛並みを撫でながら、ずらしていたゴーグルを正しく付け直した。



「でも、飛ぶのが好きなんだ。

この空を独り占めできる時間があるなら、地上のヤなことなんて・・・・私にとっては胡椒の粒みたいに小さいことなんだ」



ブルシモはアリアの言葉を聞いて、心の中にモヤモヤするものを感じた。


(この感情は・・・何だろうか?)



「そ、れ、に!」



アリアは腕を伸ばして、ブルシモを抱き寄せた。



「あなたみたいにかわいい子がお客さんで来たら、私なら抱きしめ放題だもんねえ!

役得役得♪」



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