第51話 【4日目午後】 投剣

立ち上がったコルテロは座っているブルシモの肩を踏みつけ、そのまま仰向けに押し倒した。

彼の両手には小銃が握られている。



(殺される!)



ブルシモは固く目を閉じた。

すぐに鈍い金属音が聞こえ・・・何も起こらなかった。


ブルシモは恐る恐る、ゆっくりと目を開いた。

片脚で自分を踏みつけているコルテロの視線と銃口は建物の上に向けられている。



「怪我はないか?」


「・・・・踏むのをやめて頂けませんか?」


「・・・・すまない」



コルテロは視線を変えないまま、ゆっくりとブルシモを踏みつけていた足をどけた。

ブルシモは体を起こし、服に付いた埃を払っていると、自分が座っている地面の近くに細長い金属片が落ちていることに気が付いた。


さっきまでこんなものがあっただろうか?

何とは無しに、ブルシモはその先が尖った小さな杭のような金属片を拾うために手を伸ばした。



「触るな!」



コルテロの声に驚いて、伸ばした手を引っ込める。



「・・・毒が塗ってある。

・・・・下手に触って、手に傷がつくと死ぬぞ」



ブルシモは身震いした。

辺りを見渡してみると、同じような金属片がいくつも転がっている。



「あの・・・ありがとうごさいます。

でも守り方が・・・もうちょっと気を使ってくれませんか?」


「・・・・」



近くの建物の上を警戒していたコルテロがようやく銃口を下ろした。



「さっきの人たちに追いつかれたんですか?」


「・・・・今は距離を取っているみたいだがな。

一旦移動する。 立てるか?」


「は、はい!」



ブルシモが立ち上がると、2人は走り出した。

コルテロは走る最中、顔の隠しを付けながら思考を巡らせた。



(どうする?  この様子だと追手はフェーロ〈鉄〉だ。

このまま『集合場所』に向かっても、敵に味方の所在を知らせるだけだ。

かと言って、ブルシモを連れて振り切れる相手じゃないし、交戦しようにもフェーロは追跡と投擲のプロだ)



狭い通路を走る中、うなじに火傷しそうな殺気を感じた。

コルテロは振り返り、小銃を振って、飛んできた投剣を全て叩き落した。



「・・・また・・・一体どこから・・・・」


「止まるな! 走り続けろ!」



(恐らく奴は気配を消しつつ、この距離を保ったままじわじわと攻撃して隙を狙うつもりだろう。

対してこちらは、奴が攻撃する瞬間しか向こうの居場所が分からない。

何か手を打たないと・・・このままだとジリ貧だ)



背後から飛んでくる投剣に警戒して、ブルシモがコルテロの前を走っていたが、段々とブルシモの息が上がり、ペースも落ちてきた。



(どうする・・・ブルシモも疲労が限界だろう。

何か・・・何か・・・・・)



すると突然、上空から笛の音が聞こえた。

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