第50話 【4日目午後】 人殺しの目

「おい! 聞こえるか?!  

ラーメは逃げた! 

そっちは動けるか?!」



男は煙幕の向こう側へ声をかけた。



「あの野郎!逃げやがったのか!?

ちくしょう! 右足をやられた!

俺は動けねえ!」


「ッチ、どいつもこいつも」



男が悪態をつくと、男が立っている近くの壁に何かが刺さった。

男が近づいてみてみると、金属の杭のようなそれには荒っぽい字で“OVEST”(西)と書かれてあった。



「・・・やはり使えるのはアイツぐらいだな」



そう呟くと、男は西に足を向けた。




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コルテロは裏路地のさらに奥、周りからは死角になる場所に来るとブルシモを背から降ろした。

すでに彼女の意識は戻っていたようで、目の焦点は合っているし、会話にもきちんと応答できていた。



「・・・すみません。 足手まといになってしまって・・・・」


「気にするな。  傷を見せてみろ。

応急処置だけしたらすぐに移動する」



コルテロはブルシモの頭の傷を改めて診てみたが、思った通り深手ではない。

少しの火傷と擦過傷があるが、すでに出血も止まっていた。

コルテロは腰袋から小さな瓶と布を取り出した。



「本当はその辺の家から煮沸した水を貰えれば一番いいんだが」


「私たち指名手配中ですもんね・・・ッイッたぁ・・・・」



コルテロは患部にに布を当てながら、小瓶の中の液体を傷口にかけた。



「・・・ちなみにそれは何ですか?」


「これか? 心配するな、ただの蒸留酒だ。

綺麗で汚れていない布切れを持っていないか?」


「ハンカチなら持ってますが・・・」


「綺麗か?」


「・・・・先月買った物です。

洗濯してからまだ使ってません」


「借りても?」


「・・・・・・良いですよ」



コルテロは患部を消毒し終えると、残りでブルシモの顔の血汚れを拭きとりながらハンカチを受け取った。



(・・・・お気に入りだったのにな)



コルテロは受け取ったハンカチを患部に当てながら、別の細長い布で手際よく固定していった。



「さっき『俺たちは指名手配中だ』とお前さんは言ったが、アルジェントの話だと国に追われているのは俺とガバリエーレだけだ。 だから・・・」


「だから、何です?」



ブルシモは包帯を巻くコルテロの腕を掴んだ。



「『指名手配されていない上に、怪我をした役立たず』はここに残れと言うのですか?」



ブルシモはコルテロを睨んだ。

顔の隠しをとったコルテロの表情には逡巡の感情が見て取れた。


しかし一瞬でコルテロの顔が変わった。

冷たく、感情のない瞳。


コルテロはブルシモの腕を振り払うと、小銃を手に取って立ち上がった。

ブルシモはその場で動けず、コルテロの顔から眼が離せなかった。



ああ、私はこの顔を知っている。

あの男と同じ。

これは『人殺しの目』だ。







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