第44話 【4日目午後】 矛

「小娘、王宮の近衛騎士団は知っているな?」



ローブをとった男は懐から煙草を取り出し、マッチに火を付けた。

改めて見ると男は長身だった。

男性の中では平均的な身長のコルテロと比べると、男の方が頭1つ分大きい。



「・・・あっ当たり前じゃない。 国民なら誰でも知ってるわ」


「なら小娘、『近衛騎士団』とはどういう存在だ?」


「近衛騎士団・・・ソレニーチャ王国軍の精鋭部隊・・・・規律と礼節を重んじる軍人様の最も栄誉のある地位・・・・・少年の憧れ・・・国王陛下直属の配下・・・・・・・」



男は紫煙を吐きながらブルシモの言葉を聞いていた。

彼の右手は腰に下げた剣にかけられていた。



「そうだ、そしてあの犬っころたちはなんて呼ばれてる?」


「・・・・『不倒の王族の盾』?」


「そう、奴らは『盾』なのだ。

しかし小娘、おかしいとは思わんか?」


「・・・な、何がよ」


「盾とは守るための武器だ。

もちろん実戦では敵を盾で攻撃することもあるが、基本的には敵の攻撃を防ぐための道具だ。

国の頂点である王族が持つ『武器』が『盾』だけでは心許ないとは思わないか?

人が争うときには『身を守る道具』も必要だが、『敵を倒す武器』が必要だ」


「・・・つまり・・・・で、でも、そんな話聞いたことないわ!」


「当たり前だ。

近衛騎士団として国の表舞台に立つ『盾』どもと違って、『我々』はあくまで舞台裏、存在しないものとされていたからな」


「我々って・・・」



ブルシモはコルテロの顔を見た。

まだ顔を隠しているため、相変わらず表情は読み取れない。



「そう、俺たちはかつてソレニーチャ王国軍近衛団所属第0騎士部隊、別名『必殺の王族の矛』の生き残りだ。

数を揃えただけの肉壁である『盾』に対して、『矛』は少数精鋭。

1人1人が殺人の技能を持ったプロ集団だ。


人数の少ない『矛』において、隊員1人1人に明確な序列が存在した。

そしてその序列を〈金属〉の名によって示し、その名でお互いを呼称した」


(金属の名が序列で呼称。  アルジェント〈銀〉、ラーメ〈銅〉、ピオンボ〈鉛〉、メルクーリオ〈水銀〉・・・・コルテロ様がラーメ、この男がアルジェントということは・・・)



男は視線をコルテロに移した。



「そういえばラーメ、組手の戦績は俺の方が圧倒的に上だったな」


「・・・・」


「どうした? 

さっきから、昔みたいに喋らなくなっちまいやがって」


「・・・・」


「はぁぁ・・・何が言いたいのか知らないが、答えは聞かせてもらうぞ」



男は吸っていた煙草を踏み消した。






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