第42話 【4日目午後】 追跡者たち
コルテロはブルシモが買いこんだ品が入った大袋を片手で抱えながら、人通りの多いフィオリレ市の大通りをまるで川面に浮かぶ木の葉のようにスイスイと移動していった。山育ちで宮廷仕えでもあるブルシモは体力には自信があったが、街中にある無数の障害物をまるで自分の家の家具の間を通るみたいに、さも当たり前のように避けてどんどん進んでいくコルテロについていくのは骨が折れた。
彼女はそんなコルテロを人や物にぶつかりながらも何とか追いかけた。先を進むコルテロは時折、何故か視線を空に向けていた。
暫くして、コルテロは急に裏路地に入った。フィオリレ市の建物は背が高いものが多いため、必然的に路地は薄暗くて湿気臭い。裏路地を進んでいると、ぼろを被って座り込む老人や酒瓶片手に談笑する若者たちとすれ違った。ブルシモは裏路地で見る人間たちが気味悪かった。彼らの中にロッソ家の刺客が潜んでいて、今にも銃口を向けられやしまいかとハラハラしていたが、そんなことは起きなかった。
時々、こちらに興味ありげな視線を向ける者はいたが、大概の裏路地の住人達は無関心でカビの生えたような両目で2人を流し見するだけであった。
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その調子で裏路地を速足で進んでいた2人だったが、道が少し開け、小さな広場のようになった場所でコルテロは立ち止まった。コルテロが立ち止まったので、ブルシモもその場で足を止めて膝に手を突いた。
「ハア、ハア、ハア・・・追手は巻きましたか?」
「まずいことになった」
「え? それってどういう・・・」
コルテロの顔を見ると、少し息が切れた彼の鋭い視線は周囲に向けられていた。
「相変わらず勘は良いが、チェスは苦手のようだな?」
低くて、人を威圧するような声が辺りに響き、ブルシモは背筋に悪寒が走った。周りを見渡しても、周囲に人影は見当たらなかった。
「多数で1人を追い込むことをチェスっていうのか?・・・生きていたんだな・・・アルジェント」
「ほう、少しは口がきけるようになったか小僧。 久しいなラーメ、いや今はコルテロと呼べばいいのか?」
(アルジェント〈銀〉?、ラーメ〈銅〉?、お金の話?)
コルテロとブルシモがいる広場は大まかにTの形をしており、2人はレンガ造りの建物の壁を背に、左右と正面の3方向が見える位置に移動した。その左右と正面の3つの通りからそれぞれ1つずつ、黒い影がのそりと姿を現した。コルテロは荷物を持っていない方の手でブルシモを抱き寄せ、小声で囁いた。
「俺が合図をしたら、何も考えずにまっすぐ走れ・・・全力でな」
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