第41話 【4日目午後】 不思議な力

コルテロとブルシモが人ごみの中を進んでいると、劇団『ディヴェルテンテ』のパレードに夢中になっていた大柄な男性の振り回した腕がブルシモの肩にぶつかった。

バランスを崩した彼女が踏み出そうとした足は石畳の舗装の壊れた部分に引っ掛かり、前に出なかった。


「このまま転ぶ」っとブルシモは思った。彼女の倒れる先には金物屋が露天商を開いており、鉈や包丁、鍋などが店頭に並べられている。彼女は咄嗟に頭を庇い、身を小さくして衝撃に備えた・・・何も起きなかった。


気付けば、ブルシモはその場に立っていた。彼女には何が起きたか分からなかった。今確かに転びそうに・・・不可避の転倒をしたはずだった。肩にはコルテロの片手が置かれている。



「おっとすまねぇ。 大丈夫かい、おねぇさん?」



腕をぶつけた男が声をかけた。



「こちらこそ周りをよく見ていなかった。すまない」



コルテロは肩に置いた手を放しながら男に答え、すぐに歩き出した。ブルシモはすぐに彼を追いかけた。



「あの、コルテロ様? 今、何をされたんですか?」


「・・・お前さんが転びそうになったから、引っ張って支えてやっただけだ。以後気を付けるんだな」


(違う。 あの強い力・・・じゃなくて、何かの力で私を浮かせて地面に倒れるのを止めた? とにかく、あの変な感覚はいったい?)


「もしかして、コルテロ様って・・・」


「ときにブルシモ・・・ルーシーと呼んだ方が良いんだったか?」


「・・・どちらでも構いませんよ」


「お前さん、走るのは得意か?」


「?・・・何の話ですか?」


「落ち着いてよく聞け。 尾けられている・・・相手は3、4人だ」



ブルシモは寒気を感じた。無意識に後ろを見たが、人通りが多いせいで、誰が怪しくて誰がそうでないのかは全く見当がつかなかった。



「キョロキョロするな。向こうに気取られる。 大丈夫だ、まだ向こうに襲ってくる気配はない・・・今のところはな」


「ロッソ家の刺客ですか?」


「さあな。どのみち、このまま姫様の元に案内するわけにはいかない」



コルテロはすでに姫様と大隊長が待つ場所とは逆方向に歩いていた。



「もう一度聞くぞ。走るのは得意か?」


「・・・その辺の町娘と一緒にしないでもらえませんか? 私は4歳の時から5人の兄弟たちとビアンコの野山を走り回って、トリと馬を乗り回していたんですよ」



ブルシモは自分の声が震えるのが分かった。



「それは頼もしいな」




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