第40話 【4日目午後】 コルテロと侍女

時は少し遡り、ここはフィオリレ市街。



「コルテロ様、お待たせいたしました。これで買い物は全てです」



そう言われたコルテロは、いっぱいになった大きな紙袋を抱えていた。



「そうか、なら姫様のところへ戻ろう。長居は無用だ」



コルテロとブルシモが帰り道を歩いていると、遠くの方から小気味のいい音楽が聞こえてきた。高く鳴り響く笛の音、気分を高揚させる太鼓の拍子、美しく奏でられる弦楽器、彼ら彼女らは一団となってフィオリレ市の大通りを陽気な音楽を演奏しながら練り歩いていた。一団の周りでは10歳ぐらいの子供たちが、何かのチラシを派手にばら撒いている。そして、楽器隊の先頭には派手な紳士服を着込んだ背の高い男が、ステッキを振り回しながら大声で何かを語っていた。



「さあさあ! 寄ってらっしゃい見てらっしゃい!♪

紳士淑女の皆様方、お坊ちゃんにお嬢ちゃん、腰と膝がアルファベットの『C』みたいに曲がっちまったお爺さんとお婆さんも!♪


劇団『ディヴェルテンテ』の公演だ!♪!♪

仕事を休める奴は休んじまおう!♪

何故って? 『ディヴェルテルテ』の劇があるからさ!♪


今日から2週間、我らお調子者がフィオリレ市にお邪魔するぜ!♪

明日の記念すべきフィオリレ初回公演の演目は♪・・・


(ドン、ドン、ドン、ドン、ドドドドン)


みんな大好き『救国の英雄 コルテロ』だあ!」



道行く人々が一団に向けて、歓声と拍手を浴びせている。ブルシモは路に落ちているチラシを拾い上げ、砂を払って見てみた。チラシには公演時間と『救国の英雄 “コルテロ” ~命を懸けて国を救った1人の兵士の物語~』と書かれてあった。


顔を上げ、コルテロの表情を見てみた。 隠しで表情は分からないが、目元から複雑な感情が読み取ることができた。



「『俺が英雄コルテロ様だぜ』って、出ていかなくていいんですか?」


「馬鹿言え・・・野次馬がこれ以上増える前に帰るぞ」



コルテロは急に速足に歩き始めたので、ブルシモは急いで追いかけた。



「フフフ、私がコルテロ様と一緒に買い物をしたってことを、弟たちに聞かせたら飛び上がって喜ぶでしょうね。弟たちはあなた様のファンですから」


「お前さん、えっと・・・」


「ブルシモです」


「ああ、そうだったな。 その顔つきと話し方、北の出身か?」


「え・・・そうです。北の国境付近のビアンコ地方出身です。嘘やだ・・・そんなに訛ってましたか?王都に来てから頑張って直したんですけど」


「気になるほどじゃない。ただ、北の『氷の大地』出身の知り合いがいるだけだ。ビアンコか・・・あの貧しい土地で兄弟が多いと大変だろう」


「兄が3人、弟が2人で兄弟で女は私だけ。大変でしたけど、みんな明るくて働き者の良い家族です」


「例の友人もビアンコのか?」



コルテロはブルシモが首にかけているペンダントを見た。ブルシモはそのペンダントを握りしめ、コルテロに笑顔を見せた。



「ええ、そうです」



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