第39話 【4日目午後】 トリの知らせ

天幕を出たガバリエーレが外に繋いでいるアソたちの様子を見に行くと、アソは何故かギィギィと市街の方へ向けて、何かに呼びかけるように鳴いていた。ガバリエーレのパートナーであるホダカはそんな煩いアソを嫌がる様に、少し離れてふて寝をしている。



「こらこら、どおぉどおぉ! 一体どうしたのだ? お前の主は今はおらんぞ」



ガバリエーレがなだめようとしても、アソは言うことを聞かずにフィオリレ市中心街の方角へひっきりなしにギィギィと鳴き続けている。



「まさか、お前の主・・・コルテロに何かあったのか?」



ガバリエーレはアソの視線の先・・・フィオリレ市街に目を向けた。数時間前にここに到着したときに見た景色と、何ら変わらないように見える。 変化しているところと言えば、太陽が傾き空に赤みがかかり始めたことと、町上空近くを飛ぶトリが増えたことぐらいだ。


飛空士はどこでも好きに飛んでいい訳ではない。この世界には『飛行禁止区域』というものがある。気候や地形により飛行困難な土地がその大半だが、市街地上空も含まれている。しかし、市街地の中でも特段大きな町であれば、大通りや水路、溜池などでは特別に鳥乗が許可されている場所がある。


トリはこの世界を生きる人々にとって欠かせない移動手段なのである。今は夕暮れ前で、暗くなるまでに帰ろうと帰路に就く市民が増えだす時間だ。




ガバリエーレは心配になった。 少し遅すぎやしないかと。



「まさか2人はすでにロッソ家の人間に捕らわれていて・・・いや、あのコルテロがそう簡単にへまをするはずが・・・ならなぜ食料を少し買うだけで何時間もかかる?・・・単に目当ての品が無くて探し回っているだけなのか?・・・女の買い物は長いというが・・・」



ガバリエーレはなお鳴き続けるアソの黒い毛並みを撫でながら、色々考えを巡らせた。 やがて考えるのに疲れ、そろそろ姫様の様子を見るために天幕に戻ろうとした瞬間、フィオリエ市の城門から馬に乗った人間が数騎、勢いよく飛び出してきた。

街から出た彼らはすぐさま進行方向を変え、迷わずこちらに向かって馬を駆けだした。


馬は合計4頭、人間は2人乗りが2騎と1人乗りが2騎で合わせて6人。まだ遠目で人相の判別はつかないが、コルテロたちの可能性は低いだろう。



「荷物を捨てて、姫様だけ担ぎ上げてホダカに乗って逃げるか・・・いや、この距離では姫様を乗せている間に小銃の射程距離に入ってしまう。 陽動、挟撃の可能性はあるが・・・これしか手はあるまい」



ガバリエーレは右腰の拳銃を引き抜き、全弾装填されていること確認し、軽い動作確認を行った。



「6人か、舐められたものだ」



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