第38話 【4日目午後】 王女と大隊長3
「なんで私が、なんで私ばっかりこんな目に合うの。 私が何をしたっていうの?!」
「姫様」
「近づかないで! 話しかけないで! どうせあなたも私が王家の人間だから媚びへつらっているだけでしょう?! 大人はみんなそう! ヘラヘラヘラヘラ、揃いも揃って気持ち悪い顔でニチャニチャと!」
「姫様、私は・・・」
「何が結婚よ! インパジエンザ?誰なのよ?! 最初に名前を聞いたときは道化師の名前かと思っちゃったわ。 会ったら会ったで顔は悪くなかったけど、自分のこととよく分からない政治?の話しかしないし。 私だって・・・私だってルーシーみたいに恋をしたいのに・・・どうして私ばっかりこんなに不幸なの」
ガバリエーレはどう言葉をかけていいか分からなかった。 相手が新米の部下ならば、「男がそんな風にぐちぐちと弱音を吐くな」と一喝した後に、飲みにでも誘って話を聞いてやるのだが、王女相手にそんなことはもちろん出来ない。
王女は話し続けた。 今まで自分の中に押し込め、溜め込んでいたものを吐き出すように次から次へと、脈絡はないが感情の乗った言葉が彼女の口から吐露され続けた。
それはガバリエーレが初めて見る王女の姿だった。ガバリエーレはシリエジオ王女のことをまだ母の腹の中にいるときから知っていた。ガバリエーレの知る彼女は大人しく、無口だが礼儀正しい娘という印象だった。特にその印象は彼女の父・・・前王が崩御されてから顕著だった。
(相当溜め込んでいたんだな)
ガバリエーレは黙って王女の言葉に耳を傾けた。暫くして、俯きながら話していた王女はふと顔を上げた。
「そういえばガバリエーレ、『マーモッタ』って知らない?」
ガバリエーレはドキリとした。
「っん、ひ、姫様?・・・マーモッタとは高原によくいる人の頭ほどの大きさのネズミのことですが・・・それがど、どうかされましたか?」
「パパ・・・前王様が『本当に困ったときはマーモッタに助けてもらいなさい』って言っていたことがあったの。 でもネズミに助けてもらえるわけないし、何かの比喩か合言葉だと思うんだけど、知っていることは無い?」
ガバリエーレが口を開こうとした瞬間、外からギィギィとトリの鳴き声が聞こえてきた。この声はコルテロの連れているアソの鳴き声だ。
「姫様! 何やらトリが騒がしくしております! もしかしたら外で何かあったのかもしれませんので、様子を見てきます」
ガバリエーレはそそくさと天幕から這い出た。
「あいつは全く!・・・死んでも変わらないな」
ガバリエーレは心底嫌そうに、ただほんの少しだけ嬉しそうにそう呟いた。
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