第37話 【4日目午後】 王女と大隊長2
「?・・・姫様、失礼します」
ガバリエーレは王女の左目、呪毒の痣が広がっていない方の目、を手で覆い隠した。
「姫様? 今はこのガバリエーレの姿が見えますか?」
「?・・・いいえ・・・薄暗くぼんやりしていて、ほとんど見えない。 一体何をしたの?」
ガバリエーレは自分の手が震えるのを感じた。 今、王女の右目はほとんど見えていないのだ。
「ガバリエーレ?」
「い、いえ、・・・何でもありません。 だ、大丈夫です。 ささ、水をどうぞ」
ガバリエーレは王女の両手に椀を握らせた。王女は口を付けたが、半分も飲まずに椀を戻した。
「もういらない」
「姫様、お辛い中でこんなことを言うのは非常に心苦しいのですが、病に罹ったときほど沢山水を飲むべきなのです。 姫様は昨夜から何も召し上がっておられないというではないですか。 せめて一杯だけ・・・このガバリエーレの頼みと思って、飲んでもらえませぬか?」
王女は無言で恨むような視線を投げかけたが、やがて諦めたように椀の残りの水を飲み干した。水を飲み切った王女は、一瞬ピクリと動きを止めた。すると急に椀を投げ捨て、両手で口元を抑えた。
「フゥッ、フゥッ、フゥッ・・・ヴヴゥ・・・オェェ・・・」
「姫様?!」
ガバリエーレは急いでさっきの革袋の水を口に含んだ。 匂いも味もしないし、舌の痺れも無い。 呑み込んでみても特に体に異常は無かった。
背中を摩りながら、王女の様子を注意深く見る。どうやら、水に毒が入っていた訳ではなく、ただ水を飲んで嘔吐いてしまっただけのようだ。
「ウゥゥ・・・ハァ、ハァ、ハァ・・・??」
昨日からほとんど何も食べていなかったおかげで出るものが無く、ただ苦しそうに嘔吐いていた王女は突然、不思議そうに自分の顔の右側を触り始めた。
「ガバリエーレ・・・鏡を頂戴」
「・・・」
「ガバリエーレ、鏡を取って頂戴」
ガバリエーレは迷った。ただでさえこの数日間、王女には強いストレスがかかっている。 シリエジオ王女はまだ10代半ばの娘だ。これ以上王女の心を苦しめたくは無かった。
「・・・申し訳ありません。 手鏡がどこにしまわれているのか分かりません。
ブルシモが帰ってきたら渡させます。それで良いですか?」
ガバリエーレは精一杯の笑顔を作った。こんなことをする柄ではない。しかし、今はこうするべきだろう。 あいつならきっと・・・笑ってみせるだろうから。
「・・・ふざけないで!・・・もういや!」
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