第35話 【4日目午後】 買い物

「この棚の上から、冷え性と貧血、解熱鎮痛、風邪、腹痛、喉と鼻の不調に効く薬だよ。 どれが欲しいんだい?」


「解熱鎮痛を3日分。 あと、鳥乗する際の不調を軽減するものはありますか?」


「ああ、それだったら隣の籠に積んである物が全部そうだよ」


「じゃあ、それも3日分お願いします」


「はーい、まいど。薬は全部そうだけど、摂りすぎると体に毒だからね。 解熱鎮痛は肝臓を悪くするし、鳥乗用のやつは眠気と利尿がきつくなるから、くれぐれも多用は厳禁だよ、お嬢さん」


「ありがとう。大切に使います」



買い物を済ませた侍女は表で待っていたコルテロに声をかけた。



「お待たせしました。では、行きましょう」


「本当に民間薬を買う意味があるのか? 王宮付の医務官が用意した薬がまだあるんだろ?」


「この国最高峰の知識を持つ医務官でも、分からない部分が多い呪毒らしいです。

何が効果があって、何が毒の進行を遅らせるか分からないじゃないですか」


「薬漬けは体に毒だぞ。姫様を助けたい気持ちは分かるが、ほどほどにな。

買ったものを寄越せ、俺が持とう」



コルテロと侍女はフィオリレ市の中心から少し外れた市場に来ていた。大隊長は荷物番と王女の看病の為に残っている。目立つのを避けるためにアソとホダカも連れていない。



「次はパンを買いましょう。 普段食べ慣れている出来たてで柔らかいもの・・・あとそうウーヴァの実、シリエジオ様の好物なんです」


「別に買い物は構わないが、目立つ行動は避けろよ。 フードも外すな。 ロッソ家と関係のある人間に味方の顔を知られると面倒だ」



コルテロは頭と口元に布を巻いて顔を隠していた。



「・・・失礼ですが、コルテロ様の方が目立つ格好をされているのでは?」


「この町には仕事でよく来ていたから顔なじみが多い。下手に知り合いに出くわして時間を取られたくないし、関係ない人間を巻き込みたくない。 だからこのぐらいで丁度良い」



そうですか、と相槌を打った侍女は1つ気になることがあった。



「コルテロ様、お仕事というのは今の運び屋の方ですか? それとも、かつて英雄と呼ばれた軍人の頃ですか?」


「そうだな・・・両方だな・・・それ以外もあるが。 どうしてそんなことを聞く?」


「いえ、特に意味は。 コルテロ様の英雄譚を知る限り、西のサッビア国の国境近くか、オウロ島に近い半島に住んでいらしたと思っていたので」


「・・・俺は生まれも育ちも王都だ。 そういえば、昨日返してもらった上着に入っていたナイフが一本無くなっていたんだが、知らないか? 刃の長さが小指ぐらいで、反りの内側が研いであるやつなんだが」


「・・・見ていないですね。 あとで探しておきます」

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