第34話 【4日目午後】 フィオリレ市
大陸中央に位置し、広大な領土を誇るソレニーチャ王国はその国土の広さ故に、気候や動植物、文化が国内でも場所によって異なる。大陸を南北に分断しているスピーナ・ドルサーレ山脈より北は草原地帯。草原地帯からさらに北に進むと、1年の半分以上を雪に覆われる氷の大地が広がっている。大陸山脈以南には背の高い針葉樹林が広がっており、南へ行くほど気候は段々と穏やかになり、やがて深緑の針葉樹に覆われた大地から淡い緑色をした広葉樹へと移り変わる。
未明にラゴ市を出発したコルテロたちは途中で小雨に降られはしたものの、道中特に問題無く、昼過ぎには中継地点の1つであるフィオリレ市上空に到着した。
観光名所兼大陸山脈街道入り口の要所であるラゴ市と違い、ここフィオリレ市は海洋に面した歴史と商売の町だった。市の歴史は古く、王国建国以前から海運業で栄えており、大陸では珍しい4階建て以上の建物が町中に建ち並び、人と金と物が絶え間なく流れ続ける趣と活気のある土地だった。
勿論この町にもアッセロ運送会社の支部は存在するが、コルテロたちはあえて支部には立ち寄らず、郊外の小高い空き地へと降り立った。なぜなら、ここフィオリレ市は姫様を襲撃したロッソ家の権威が強い街だからである。迂闊に街中に入るのは危険な上、すでにロッソ家の兵によってフィオリレ支部を抑えられ、待ち伏せされている可能性を考えてのことだ。
コルテロとしてはこのまま野営をするつもりだったが、そういう訳にもいかなかった。
王女の容体が良くない。ガバリエーレ大隊長の話によれば、姫様にかけられた呪いは発症からきっかり7日後に対象者の命を奪うという。アッセロ運送会社北部草原基地に大隊長たちが来た前日に呪いが発動したと考えると、今日で4日目の折り返しなのでまだ時間はある。しかし、呪毒で体を蝕まれている状態での慣れない環境、長時間の鳥乗、刻々と迫る死へのタイムリミット、様々な過度の負荷のせいで精神的にも肉体的にも疲弊しているのだろう。
地上に降り立つなり足元から崩れ落ち、肩で息をする姫様の姿を見た大隊長と侍女はどれだけ貧相でも宿に泊まることを主張したが、俺はその提案を拒否した。トリを連れて宿に泊まれば目立つし、足跡が残ってしまう。王女を逃したロッソ家は現在、国中を血眼になって姫様を探し回っているはずだ。そんなロッソ家の庭であるフィオリレ市に入るのは危険すぎる。
しかし、それでも食い下がる2人に俺が根負けした。折衷案として、宿には泊まらないが、乾物などの最低限の食糧しか持ち合わせていないので、街に滋養のあるものを買いに行くことになった。
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