第32話 【4日目早朝】 ホダカ

夢を見た。過去の記憶だ。


「どうして軍にいるの?」


彼女が尋ねた。「これしか生きる方法を知らないから」と答えた。




「どうしてトリに乗るの? 落ちたら死んじゃうじゃない」


「トリに乗るのが好きなんだ。 空は静かだから」


「どうして普段あまりしゃべらないの? 話すの嫌い?」


「嫌いじゃない。 ただ・・・話し方がよくわからない」


「どうして一緒にいてくれるの? 私・・・こんななのに」


「・・・よく分からない。 けど君以外の人といるより、君といる方が・・・そう、悪くない」




「どうしてもっと早く来てくれなかったの?  全部あなたのせいよ」


「それは・・・」



違う、こんな会話は無かった。

これは俺の記憶から作られたただの幻覚だ。

しかし、幻覚の彼女は話し続ける。



「仕事なんて放り出せばよかったじゃない! あなたのことをずっと待っていたのに! どうして・・・どうしてなの!


『救国の英雄』? 笑っちゃうわ! そんなに祭り上げられて嬉しい?! 私を殺しておいて!!!」


「違う、違うんだ」


「何が違うの? 私を殺しておいて、今は何をしているのコルテロ?

あなたのせいでベントも死んだわ! あんな王女だか何だか知らない娘の為に、あれだけあなたによくしてくれた人をあなたは見殺しにしたのよ!!!」


「エフィ! 俺は・・・」



突然、目の前が真っ暗になった。気が付くと、俺は暗い天井を見上げていた。


そうだ、夢を見ていたのだ。意識が段々はっきりしてくるにつれて、現実の自分の身体の輪郭も戻ってくる。時計に目をやると、ちょうど1時を指していた。そろそろ支度を始めなければならない。




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身支度を整えて厩舎に向かうと、明かりが焚かれた夜明け前の暗い厩舎の中では数人の飼育係の職員と大隊長が白い息を吐きながら出発の準備をしていた。



「おはようございます。 早いな」


「おう、コルテロか。 じっとしていられなくてな」


「これが大隊長のトリですか?」



大隊長が餌を与えているトリは一目見て分かるほどに良いトリだった。アソよりも一回り大きな立派な体躯、栗色の毛並みは雨に濡れた後のように滑らかで美しく、胸筋は岩のように大きい。



「ホダカというんだ。一昨年の祭典で王より賜った私の宝だ。その年の国のトリの品評会で最優秀賞を取ったこいつを有難いことに頂けたんだ」


「羨ましいな、全く」



俺もアソに餌を与えていたが、忘れていたことを思い出して近くの職員に声をかけた。



「すまない、アソがここまで付けてきた鞍とは別の鞍を用意してくれないか?」

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