第31話 【3日目夕方】カーテシー

コルテロは悩んでいた。理由はいくつかある。1つは『湖島の魔女』のところまでのアシだ。北部草原基地からここまで、アソはよく頑張ってくれた。しかしアソの翼の速さと体力を考慮すると、可能なら別の速いトリに乗り換えたい。


実際そのつもりだったが、現在ラゴ市支部の速達用のトリたちは全て出払っているらしい。支部長に事情を聞いたところ、今から1週間ほど前に3大侯爵貴族の一角であるロッソ家から急ぎの依頼が来たそうだ。



「何でも、スピーナドルサーレ山脈中の大きな街道の1つで落盤事故が起きて、山中にあるいくつかの町が孤立しちまったらしい。その事故が起きた街道の修繕と孤立した街の支援の為ってんで、ウチに依頼が来たんだ。条件も悪くなかったもんで、空いているトリと職員はほとんど行かせちまったんだ、すまねえ」



支部長はコルテロに対して、本当にすまなそうに頭を下げた。隣で話を聞いていた大隊長は『ロッソ家』の名前を聞いて顔をしかめた。



2つ目の悩みはその大隊長だった。なんと、ついてくると言い出したのだ。



「あの時は私が生きてあの場を脱出できるかどうか分からなかった。だから全てお前に託した。しかし、今こうして生きて動ける状態でいるのだ。無論、姫様の傍にて御身をお守りする」


「あんた、部下たちのこと・・・それこそ姫様の婚約者の次期侯爵様のことは良いのかよ?」


「インパジエンザ次期侯爵殿は私の優秀な部下たちが護衛している。それに、貴様も元軍人なら分かるだろう? 軍において最も優先されることは『作戦遂行』だ。傷つき、命を落とした私の部下たちの名誉のため、そして彼らの努力に報いる為にも姫様の命は何としても救わねばならない。その為ならば私は文字通り『不倒の王族の盾』となろう」



コルテロは顔をほころばせながらため息をついた。



コルテロが3つ目の懸念について考えながら厩舎で大隊長や支部長たちと今後について話をしていると、例の侍女が顔を出した。



「今後について話していたところだ。 姫様のお加減はどうだ?」


「はい、ガバリエーレ様。 まだ体調が優れない御様子です。お食事もほとんどお召し上がりにならなくて」


「・・・そうか」


「コルテロ様。 主があなた様の上着を借りていらしたようでしたので、返しに参りました。 その節はありがとうございました」



コルテロは侍女から自分の上着を受け取った。



「それで?  いつ出発されるんですか?」


「お前・・・まさかついてくる気じゃないだろうな?」


「?・・・何をおっしゃるんですか? ガバリエーレ様。 私の他に誰が主の身の回りの世話ができるというのですか?」



傍で話を聞いていた支部長が噴き出した。



「ナァハハハハ!  度胸のある嬢ちゃんだ! 良い娘だ!惚れてしまいそうだよ!!」



コルテロはまた1つ溜息をつくと、侍女に話しかけた。



「名前は?」



彼女は指先でスカートの裾を持ち、丁寧にお辞儀をした。



「『救国の英雄 コルテロ様』、申し遅れました。ブルシモと申します。愛称はルーシー、どちらで呼んでいただいても構いません。以後よろしくお願いします」




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