第27話 【3日目午前】 生き残った4人

ラゴ市支部長の心遣いから、コルテロと姫様は先に医務室で怪我がないか診てもらうことになった。医務室へ足を運ぶ道すがら、支部長はコルテロたちに先客がいることを伝えた。



『安全第一! 飲酒、寝不足、体調不良、朝食抜き、失恋、いずれかに該当する者は鳥乗禁止! 破った者は罰金!』



と書かれた扉を開けると、中には見覚えのある後姿が2つ、所在無げに座っていた。


2人は振り返ってこちらをみとめると、立ち上がりざまに腰掛けていた椅子が転ぶのも構わずに、ラゴ支部の女性職員に両肩を支えられて立つ姫様の方に駆け寄った。

ガバリエーレ大隊長と『出発する直前に薬を渡してきた姫様の侍女の1人』だった。



「姫様! よくご無事で! このガバリエーレ・・・貴女様の近くに侍ることができず・・・直接御身をお守りすることができず・・・断腸の思いでお待ちしておりました。


ああ・・・こんなに煤だらけになられて・・・とてもお疲れのご様子ですが、どこかお怪我はありませんか?!


・・・何ですと?・・・足腰が言うことを聞かない? 無理もありません。 後席とはいえ、初めての鳥乗で一晩も飛べば誰でもそうなります。 おい、姫様に手を貸しやれ」



侍女がラゴ支部の職員に変わって姫様の肩を支えようと歩み出たが、姫様を支えている職員が彼女を制した。



「いけません。 あなたたちも一晩掛けて大陸山脈を越えてきたんでしょ? あなたたちの『姫様』のお世話は一旦私たちがやるから、あなたたちは今は休むことを優先しなさい」



しかし、姫様の侍女は断固として譲らなかった。



「私は大した怪我もしておりませんし、疲れてもおりません。 それに、主は少し特殊な体質な方で、世間ではあまり知られていないお世話を必要とされるお方なんです。 お気遣いには感謝しますが、私が姫様を診ます」



そう言い張る侍女の胸には、例のペンダントが光っていた。

結局、職員が根負けし、医務室内の個室の場所と設備の説明だけ済ませると、姫様のことは全て侍女に任せた。


その様子を見届けた大隊長は俺の方に向き直り、ズカズカと近づいてきて俺の目の前に立ちはだかると、やや大げさに左拳を振り上げた。


俺は避けなかった。


鈍い音が部屋に響いた。


右頬がジンジンと熱い。口の中で鉄の味がした。



「・・・避けないということは・・・私の言いたいことが分かっているな?」


「・・・もちろんだ」


「3騎だ。 2騎は山脈手前で襲撃された際に。 残り1騎は山脈越えの途中で力尽きた。 この基地の人間に聞いたところによれば、私とお前の2騎以外はラゴ市に着いていない。 3人とも・・・私の優秀な部下だった」


「弁明する気は無い。  作戦を提示した俺の責任だ。  だが今は・・・」


「分かっている!・・・それはそれだ。 私はアッセロ運送会社の職員を守り切れなかった・・・すまない。 ・・・よくぞ姫様を・・・感謝する」


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