第24話 【2日目夜】 ラゴ市

コルテロがスピーナドルサーレ山脈上空を飛んでいると、遠くの山上にチラチラと移動する光の点が目に入った。それらの光の点はコルテロと同じく、ランタンを灯して鳥乗した者たちで、運び屋にとっては見慣れた景色だった。


運び屋のみならず、鳥乗する者は『月の出ていない夜は明かりを携帯して飛行すること』が義務ではないが、常識だった。闇夜の飛行は危険なので、事故を防ぐための配慮であり、夜に目立つ明かりを持つことによって『自分は物取りではない』という意思表示でもあった。


日没からしばらくして、東の空に満月から数日過ぎた居待ち月が顔を出し、夜の世界が一気に明るくなった。月明りによって視界を得たコルテロは、ランタンの火を消した。


輝かしい太陽とは違い、淡く妖艶な月の光が支配する静寂な世界。耳に入る音は自分、そして自身が跨るトリの呼吸と鼓動のみ・・・今夜は人間1人分多いが、コルテロはこの静かな時間が気に入っていた。特にこの山脈上空は生物の気配が極端に少ないのが良かった。


元来、コルテロは人間社会の喧騒が苦手だった。怒り、悲しみ、嘆き、喜び、嬉しさ、嫉妬、欲、様々な感情が無数の声でガチャガチャとかき鳴らされているのが、子供の時分から鬱陶しく感じていた。



「じゃあお前、なんであんな女と一緒にいるんだ?」



かつて軍にいた頃の同僚にそう聞かれたことがある。当時は何と答えたのだったか。




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数時間後、月が西の空に少し傾いた頃、視界の先に山脈の切れ目が見えてきた。ちょうどコルテロたちの進行方向の山の切れ目の平地に、光の点の集まりが見える。そこが、この旅の1つ目の目的地である『ラゴ市』という町だった。


ラゴ市に近づくにつれて、ゴウゴウという低く響く音が段々聞こえてきた。空がうっすらと白んできたころ、コルテロたちはラゴ市上空に到着した。コルテロは町の北にある『この町の名物』を一瞬流し見した。


それは初見の人間は須らくその『巨大さ』に驚くであろうほど大きな『滝』だった。

形容できないほどの大量の水が、白いしぶきをあげながら、その下にある湖に空気を割るような音を立てながら流れ込んでいる。この滝がラゴ市の名物であり、先程から聞こえていた地鳴りのような音の正体でもあった。


運び屋として大陸中を飛び回っているコルテロにとっては数え切れないほど目にし、むしろ見慣れた景色ではあったが、訪れる度にこの迫力に目が吸い寄せられてしまうのだ。



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