第23話 【2日目夕方】 スピーナドルサーレ山脈

ここは大陸北部に広がる草原地帯。そのはるか上空に、帽子に赤みがかった黒鳥が一羽飛んでいた。そのトリはめいっぱいに翼を広げ、太陽がジリジリと首を落とすにしたがって刻々と変化する風をその小さな翼で器用に乗りこなしながら南に向かっていた。


トリは2人の男女をその背に乗せていた。男の服装は使い古したゴーグルに革製のヘルメット、これまたよく使いこんでいるのであろう鳥乗用の作業着に、腰のベルトからは彼の仕事道具が吊るされており、肩には小銃を携帯していた。大陸の民ならば、彼が運び屋であることは一目瞭然だろう。


女は彼女の体格に対して少々大きめの黒いローブに身を包んでおり、さらにその上から男物の革製の上着を羽織っていた。彼女の表情はローブのフードを目深に被っているのでうかがい知れないが、トリの背の上で小さく縮こまりながら、彼女と男とトリを繋いだロープを握りしめているところから、彼女が何かに怯えていることは見て取れる。


やがて日が傾き、空の天井に紫、青、オレンジ、赤のグラデーションがかかったころ、南を目指していたコルテロたちの視界に、それまでの草原の淡い緑色をした平坦でなだらかな丘陵の終わりが見え、代わりに草原が途切れた先からは群青色とオリーブ色が斑に混り、左右に長く、天高い壁が・・・いや山脈が姿を現した。


この巨大な山々こそが大陸最長にして最大の山脈である『スピーナドルサーレ山脈』だった。大陸北西から南東にかけて存在するこの山脈は、その標高と険しさゆえに古くから大陸北部の民と南部の民との交流を分断していた。山脈のそれぞれの反対側に行くには山々の隙間を縫うように作られた怪物が跋扈する危険な街道を陸路で行くか、トリに乗って空路で越えるかの2択しか存在しない。



コルテロたちが山脈上空に差し掛かったころ、太陽が西の山に吸い込まれ、夜の帳が下りた。時期としては満月を少し過ぎたころなので、まだ月は見えない。雲が少し出ているようだが、星は充分見えるので方角に迷うことはない。


コルテロは荷物から小さなランタンとロープとマッチを取り出し、ランタンに明かりを付け、それをアソの首に吊るした。首にランタンを付けられたアソは嫌そうに身じろぎしていたが、しばらく飛んでいると慣れたようで、ランタンを気にしなくなった。

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