第22話 【2日目午後】 スパイの正体

「確かにこの『悪魔の呪い』は致死率100%の素晴らしい呪いだ。 ただ、『この呪いを解く方法が存在しない』訳ではない。 フラロッテ、お主『湖島の魔女』は知っているか?」


「当たり前だろ。 あれだろ、大陸の南にあるオウロ島に住んでるっていう伝説の魔法使いだろ?」


「マゴ(魔法使い)などではない!!」



男は普段のしゃがれ声が裏返るほど叫んだ。



「奴は・・・あの売女は・・マゴ(魔法使い)などと・・・奴こそがモーストロ(怪物)だ」



男は老木の小枝のような十指をワナワナと震わせた。その様子を心底つまらなさそうに見つめながら、フラロッテは会話を続けた。



「で? その『オウロ島に住む怪物様』がどうしたって言うんだ?」


「・・・そうだ・・・そう、私の『悪魔の呪い』は非常に高度かつ複雑なもの。 その上太古の昔に使われなくなって以来、解除方法も失われてしまっているはずだ。 しかし、それはせいぜい数百年しか文献が残っていない『国』の話。


あの売女・・・『湖島の魔女』は数千年の時を生きるバケモノだ。 奴なら『悪魔の呪い』を解きかねない。 そして『湖島の魔女』との交渉を成功させたことのあるコルテロが王女にとっての私の呪いを解くキーマンなのだ」


「やっと話が見えてきたぜ。 それで? まさかとは思うが、お前の言う『呪いを解くキーマン』であるコルテロをノーマークにしていた訳じゃあないよな?」



男がフラロッテの問いに答えようとした瞬間、天幕の外が騒がしくなり始め、1人の兵士が天幕に入ってきた。兵士はパウーラに対して敬礼し、発言の許可を求めた。パウーラは黙って手を挙げ、発言の許可を与えた。



「パウーラ様、『下戸が魚を釣って』参りました」


「・・・分かった。 連れてこい」



数分後、数人の兵士に連れられて1人の老爺が入ってきた。年老いてはいるが、背筋は伸び、両目からは精気が感じられた。パウーラの指示で老爺を連れてきた兵士たちは天幕から出て行った。老爺はパウーラの前で膝をつき、頭を垂れた。



「パウーラ・ロッソ様、ご無沙汰しております。 三男様におかれましては依然とお変わりなくご健全なご様子で・・・」


「挨拶はいい。 首尾はどうだった? ボルぺ」



恭しく話していた老爺は立ち上がり、近くにあった木箱に腰掛けた。



「全く! 疲れましたよ! そちらに隠れているマレディジーネ殿の指示とはいえ、半年間厩舎でトリの世話をしていたんですよ! 腰が痛くて仕方ない」



ボルぺは労わる様に自身の腰をさすった。



「マレディジーネ殿に言われた通り、基地内の翼の速いトリは全て処分しましたよ」

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