第21話 【2日目午後】 悪魔の呪い

「そうだそうだそうだ。 次の手は既に打たれている・・・いや打ち終わっているのですよ、フラロッテ」



フラロッテが振り向くと、薄気味悪くニヤニヤと顔を歪ませながら、しゃがれ声でボソボソとつぶやく男を目に留めた。男の胴体は船の錨のように極端に曲がった猫背だった。しきりに両手の指をいじりながら、隅に置かれた荷物に半ば身を隠すようにたたずんでいる。



「おいモーストロ(妖怪)! お前、何かしたのか?」



フラロッテが尋ねると男は歯をむき出し、薄気味悪く顔を歪ませ・・・いや笑顔を見せたようだ。



「そうですともそうですとも。 パウーラ様は今回の件をお主ではなく私に!そうこの私めに任せて下さったのだ。 フラロッテ!此度はお主の出番はないぞフフフフ。


此度の女王と次期侯爵への襲撃・・・これに関してはもとより期待しておらぬ。 なんせ2人の北部旅行の護衛はあの屈強で有名なガバリエーレ率いる近衛団第2部隊だったのだからな。 結果的に次期侯爵に手傷を負わせただけでも儲けものだ。 これから2人をどうやって始末すると思う? フラロッテ?分かるか? んん?」


「さっさと話せモーストロ。 お前の薄気味悪い声を聞いていると気分が悪くなる」


「おおおう! そんなに知りたいか?! お主のように頭蓋骨の中にまで鉛玉が詰まっていそうな戦闘馬鹿には高度すぎて難しい話だからなぁ!」



男は組んでいた指を解き、如何にも芝居がかった仕草で両手を広げた。



「毒を仕込んだのだ」


「毒?」


「そうだ。 ただし、只の毒ではない。 毒と言ったが『呪い』といった方がより正しいか。 太古の昔・・・ソレニーチャ王国が建国する以前に『災悪の魔導士』が作り上げ、狂死神の大鎌が振り回されるが如く大陸中の民の命を刈り取った伝説の厄災。 致死率は100パーセント。 日に日に全身の皮膚に焼けただれたような斑紋が広がるにしたがって内臓の機能が失われていき、発症からきっかり7日後に全身に広がった斑紋によって醜い怪物の容姿へと成り果て、この世のものとは思えないほどの苦しみを味わいながら絶命する。 まさに『悪魔の呪い』。 私は長年の調査と研究の末にこの呪いのメカニズムと発動儀式を突き止めたのだ! この呪いを発動させるためには合わせて52の手順が存在し・・・」



「ああ! 分かった分かった! 要はその呪いを王女にかけているから焦って娘を追いかけなくても勝手におっ死んでくれるってことか?」



フラロッテの問いかけに、それまで恍惚の表情で語っていた男は突然無表情になった。



「残念だが懸念要素が1つだけあるのだ、フラロッテ」


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