第19話 【2日目午後】雲のよりも高い空で
ファクシア・デル・ディアボロでの空戦を終えたのち、コルテロはすぐに南に向かった。ここから最初の目的地であるラゴ市まではまだ180km以上の距離があり、あと六日以内に『湖島の魔女』のところへ到着しなければならないことを考えると、何としても今夜中にはラゴ市に着いておきたい。
コルテロは高度を上げた。高高度の方が空気が薄いので空気抵抗が少ない上に、障害物も無いので速く飛ぶことができるからだ。巨大船団のようにゆっくりと空を揺蕩う雲の層を越えると、真っ青な空が見渡す限り遠くまで広がっており、頭上では銀色の太陽が燦々と輝いている。雲の上に出ると、体中を冷気が襲った。すぐに手足の先が痺れてくる。
後ろの高貴なお客様は背中越しに伝わるほどブルブルと体を震わせていた。彼女の震えはこの寒さからか、それとも高所の恐怖からか、それとも・・・死体を見たせいだろうか。
コルテロは自分の上着を脱いだ。
「姫様、上空は寒いでしょう? 綺麗ではないですが、どうぞお使いになって下さい」
「・・・」
彼女は何も答えない。ローブのフードを目深に被ったままなので、表情も分からない。ただ体を小刻みに震わせながら、自分とアソと俺を繋いだロープをこれでもかと握りしめていた。
これは・・・どちらだろう? 下賤の者かつ男であるコルテロの上着を着ることが生理的に受け付けなくて嫌がっているのか、それともこの状況に混乱し、どうしたら良いのか分からなくて返答にこまっているのか。・・・しばしの逡巡の後、コルテロは考えるのを諦めた。
自身とアソを繋いでいる落鳥防止用ベルトを外し、ロープも解いて、鞍上で体を移して後ろを向き、袖を通さずにそのまま上着を姫様に羽織らせ、前ボタンを閉めた。ボタンを閉め終えても特に反応がないので、また鞍上で器用に身体を移して、手綱を握り直した。
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同時刻。アッセロ運送会社の大陸北部基地にはソレニーチャ王国における3大侯爵貴族の一角であるロッソ家の私兵部隊、計1000人以上が到着し、基地を占拠していた。基地の脇に張られた天幕の中で、ワックスでピシリと整えられたブロンドヘアが特徴的な男が同じく彼の特徴である長い手足を狭い天幕の中で邪魔にならないように器用に折りたたんで座りながら何かを読んでいた。
彼が読んでいたのはアッセロ運送会社の職員名簿だった。ペラペラと作業的にページを捲っていた彼だったが、あるページで手が止まった。そのページには『コルテロ』の名が書かれてあった。
「生きていたか・・・兄弟」
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