第18話 【2日目昼過ぎ】 モンタグナ社長の秘策

約十分後、コルテロは3人の追手から逃げるうちに目当ての場所にたどり着いた。『ファクシア・デル・ディアボロ(悪魔の顔)』と呼ばれるその場所はなだらか勾配が広がる大陸北部草原の中では異質な場所で、まるで嵐の日の海の波の姿をそのまま模ったような大地の姿をしていた。槍のように大地が盛り上がっている場所があるかとと思えば、乾燥しきって石みたいになったパンをハンマーで叩いた時にできるヒビのように大地が割れている場所もある。ここは周囲の草原と比べれば圧倒的に見晴らしが悪い。その見晴らしの悪さに勝機があるとコルテロは考えていた。


アソの息が少々上がっているが、調子は悪くない。知らないトリに追いかけられるのは初めてのはずなのに、ビクビクしていないし、銃声に必要以上に怯えることもない。想像以上にこのトリは大物なのかもしれないとコルテロは思った。



「正念場だ。 もう少し頑張ってくれよ」



小さく呟くと、手綱を持ち直し、重心を前に移した。アソは俺の意図を組んで、波打つ丘陵に向かって急降下を始めた。



(後ろは・・・大丈夫・・・ついてきてる)



追手の3人も急降下しながら4,5発撃ってきた。そのうちの1発がコルテロの右肩を掠った。そろそろ躱すタイミングを見切られてきたらしい。これ以上同じやり方で逃げるのは難しい。速めに勝負を付けなければ。



「姫様! スピードを出します! 頭を低くして! 目を閉じてください!」



降下によってグングンと加速し、トリのトップスピードで丘陵に差し掛かる直前、コルテロは腰に吊るしていた包みを腰帯から外し、前方に投げた。


前に放り投げられた包みを小銃で撃ち抜くと、中から黒い粉が飛び出した。手綱を左に引きながら、素早く小銃のボルトを引いて次弾を装填した。黒い粉が舞う空間をギリギリで避けつつ、小銃を持った右手を挙げ、目を瞑って引き金を引いた。


次の瞬間、小銃の激針によって引火した火薬が強い音と光を放った。想像以上の威力と風圧によろめきながら、手綱を引き、アソを右に急旋回させる。進行方向にあった小山をアソの腹が地面を滑る様に躱し、そのまま身を隠すために複雑な形をした丘の影にまわった。


振り返って追手を確認すると、狙い通り3騎とも加速した勢いのまま爆発に巻き込まれ、内2騎がそのまま上手く舵が取れずに小山の地面に激突し、トリもろとも即死していた。


3騎の先頭を飛んでいた残りの1騎(恐らく3人のリーダー)も、地面への激突はなんとか免れたようだが、目をやられたのか、顔をしきりに擦りながらフラフラと危なげに飛行している。



「ボス・・・今回のは威力が強すぎるんじゃないか?」



コルテロは安堵しつつ、ボスへの文句を呟いた。

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