第17話 【2日目昼過ぎ】 兄の教え

「ミンキャ!(クソが!)  なんで当たらねえ!」



彼らが運び屋に追いついてからすでに10分は経過していた。その間、彼らは前を飛ぶ運び屋に3人がかりで発砲していたが、一発たりとも命中しなかった。狙いを定め易い良い位置を取っても、可能な限り近づいても、上手く躱され、思うように命中しない。まるで・・・




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(まるで、心が読まれているみたいだ)



そんな風に感じるんだろうな、とコルテロは考えていた。思った通り、追ってくる3人は充分に訓練を積んだ兵士たちだった。正規非正規問わず、鳥乗戦の訓練を受ける人間が耳にタコができるほど教わることがいくつかある。


『敵の背後を取ること』『可能な限り近づくこと』この2つは特に最初に叩き込まれ、『どうせ当たらなくて玉の無駄になるから、離れた敵に無闇に撃つな』とも教わる。敵はコルテロから見て5時の方向、鳥乗した兵士が最も狙いやすいと言われる『左前方やや下』の位置に目標がいない限り下手に撃ってこない。


コルテロはわざと向こうがその位置を取りやすいように飛んでいた。そうすることによって、発砲するタイミングが読みやすくなる。あとは彼らが引き金を引く瞬間に身体を捻るか、旋回軌道を変えるなどして相手の射撃線から外れることによって弾丸を躱していた。


ふと頭に1人の顔が浮かんだ。



「戦闘する必要がない時は下手に戦わずに、こうやって逃げた方がこっちの消耗も少ない上に、楽に仕留められると思っていた獲物に予想以上の時間をかけている敵は焦る。 『敵が焦る』ということはこっちが精神的に優位に立っているということだ。 精神的に優位に立っていれば、例え多勢に無勢でも勝機は生まれる。


よし! トリに乗れ! 今からお前を狙い撃つから、今教えたみたいに躱せ。 躱せなかったら心優しい兄の言葉も理解できないそのコルクでできたスカスカの脳を撃ち抜いてやるから心配するな!」



少し顔がほころんだ。


いけない、ここは戦場だ。戦場で死ぬ要因は色々あるが、油断はその最たるものだ。今までは上手く逃げられているが、そろそろ向こうも痺れを切らして別の手札で攻めてくる頃合いだろう。コルテロはそっと腰に手を伸ばし、ベルトに吊るしているボスにもらった試作品の包みを確認した。

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