第16話 ロッソ家の私兵の男の記憶3
今追っている運び屋のトリのスピードが彼が乗っているトリと同じかそれ以上なら、トリを『長く、速く』飛ばす技術に長けた運び屋を追い立てるのは至難の業だっただろう。しかし、彼のトリが翼を羽ばたかせる度に、前の運び屋との距離はグングン縮まっていった。
運び屋はまるで首振り人形のように、何度も何度も後方を見返していた。運び屋は怖いのだろう。背後から徐々に迫りくる『死』が。
鳥乗戦闘の基本的なこととして、自分は勿論、相手も立体的かつ高速で動いている。鳥乗しながら鳥乗している人間またはトリを狙って射撃し、命中させるのはかなり難しい。実際、空中戦での弾丸の命中率は地上の10分の1以下と言われている。なので、どの軍隊や私兵、傭兵に至るまで、鳥乗して戦闘をする者が徹底して教わることが2つある。それは『敵の背後を取ること』と『敵に可能な限り近づくこと』だった。
彼も彼の部下2人も、それを理解しているのでむやみに発砲はしなかった。彼は焦らず、少しずつ確実に運び屋との距離を縮めていった。そして小銃の必中距離に・・・入った。
男は右手の手綱を離し、小銃を掲げて、自分の両脇後ろを飛んでいる部下2人に『発砲してよし』の合図を出した。その瞬間、それまで単調な直線飛行をしていた運び屋が左旋回を始めた。男も慌てて左に手綱を引く。後ろの部下2人もそれについていく。
左旋回、上昇、下降、また上昇、そして左旋回・・・運び屋は我々からトリの『速さ』で逃げることを諦めて、空中での『変化』で逃げることにしたようだ。しかし、それこそ彼らの土俵だった。彼はロッソ家の私兵として、盗賊やゴロツキ、他家の私兵と過去に何度もこの手の空中戦を行ってきた。しかも、幸運なことに運び屋は空中戦に不慣れなようで、飛行の『変化』も似たような動作の繰り返しで単調だった。
彼と部下2人は運び屋の単調な変化に上手く対応し、再び運び屋の背後の良い位置を取った。
(余裕だな。 さて、後ろに乗っている方をどうするか・・・殺しっぱなしにしておく訳にはいかんし。 かと言って、死体を持って帰るのは面倒だ。 まあ、騎士ではなく運び屋が運んでいる時点で十中八九囮なんだろうが。
しかし、確認は大事だ。 そうだな、殺した後に女かどうか確認して、女だったら首から上を持って帰ればいいか)
そう考えながら、男は小銃の照準を運び屋に合わせた。
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