第9話 【2日目午前】平行線

コルテロは人だかりから少し離れ、この場にいる全員が視界に入る位置で鳥乗する準備をしながら彼らの白熱する議論を聞いていた。厩舎に繋いであるトリたちがここにいる人間たちの殺気を感じ取ったのか、落ち着きがない。白い大きな息を吐きながら身じろぎを繰り返すトリたちをなだめながら、ウチの職員がトリたちに鞍を乗せている。


そういえば今気づいたが、ボルぺ爺さんの姿がない。まさかまだ事務所か寮の建物の方にいるのか?


コルテロは何も言わなかった。先刻の火事に巻き込まれてしまった可能性もある。だとしたらもう助からない。それにこの先、お荷物になる非戦闘員の人数を増やすのは得策ではない。


ベントはボルぺ爺さんの不在を知ったら、生死にかかわらず探しに行こうと言い出すだろう。もしそうなって、時間がさらに経過したら全員の生存確率が下がる。ここは黙っておくしかなかった。



女たちが少し騒がしくし始めた。どうやら、彼女達のうちの1人が倒れたらしい。 彼女たちは外のテントにいるときから全員同じ柄の黒いローブを頭から被っているので、顔が判別できていなかった。もちろん、倒れた女の顔も見えなかったが、周りの女たちが『姫様』と小声で呼んでいるのが微かに聞こえた。


彼女たちの中から1人、今だ議論を白熱させているベント、ボス、大隊長たちのところへ歩き出した。男たちは話に夢中になって、彼女に気づいていない。


彼女は男たちの傍に立つと、深々と被っていたローブを頭からはぎ取った。たちまち、鮮やかなブロンドヘアが姿を現した。美しい髪は簡単に後ろにまとめられており、若く整った顔立ちからは強い覚悟が感じられた。



「失礼します」



彼女が大隊長に声をかけた。大隊長は気付いていない。ボスは気付いたようだったが、すぐに会話に視線を戻した。



「失礼します!」



彼女は怒鳴るように言った。ようやく大隊長が彼女に気づいたが、ついでにその場にいた全員の視線も彼女に集まってしまった。一瞬、自分に集まった多くの視線に彼女はたじろいだが、一呼吸置いた後、話し始めた。



「いい加減にして下さい! 私たちの中には病人がいます! 騎士様もお怪我をされている方がいます! 追手が来ているなら早く出ないと! 一体何をグダグダ話しているの!?」


「そうだ! この娘の言うとおりだ! 足止めに行った部下たちもそろそろ限界のはずだ。 飛ぶ時の陣形は私たちが指示する。 とにかくここを脱出するのが先決だ」


「だんな! だから、そいつは俺たちが全滅する未来しか見えねえ!」



そこから彼らはまた平行線の議論を始めた。意見した娘は震えていた。寒さから震えているわけではないことは理解できた。


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