第4話 【2日目早朝】懇願

「勿論、無償でとは言わぬ。 我が主はやんごとなき身分のお方。 御身を救っていただければ、謝礼は十分に色を付けさせていただく」



ちらりと隣に座るボスの顔に目をやると、無言で『好きにしろ』と伝えている。全く、この人との付き合いも長くなったものだ。



「大隊長殿。 私はもう軍の人間ではありません。 命令には・・・」


「火急だと言っている!」



大隊長は痺れを切らしたように怒鳴り、机に拳を叩きつけた。机の上の茶が音を立てて零れた。



「コルテロ!  その身を投げうって王国を救い、英雄とまで称された貴様の忠誠心はどこへ行ったのだ!? 確かに貴様はすでに退役した身かもしれん。 しかし、王国民に変わりはない!


ならば! 国民として・・・義務を果たすのが臣民の誉れであろう! しかも、主の病は『湖島の魔女』でなければ癒せない。 貴様意外に誰が『湖島の魔女』のもとへお送りできるというんだ!」



叫ぶように言い終えた大隊長は顔を真っ赤にして震えている。



「・・・命令には従えません」


「貴様! 退役しているとはいえ、軍人としての・・・」



俺は目の前の机を蹴り上げた。机の上に転がっていた茶器は地面にゴトリっと落ちた。



「今の俺はただの運送業者の運び屋だ! 俺を使いたいなら、命令じゃなくて依頼をこのひげじじいにしろって話だ!」



隣にいるボスの方を指さした。



「・・・そういう訳だ、だんな。 大体、だんなの主ってのはどこの誰なんだい?」


「・・・それは・・・言えない」


「話にならん。 俺はこの坊主を貸す気はねえ。 こいつは今、休みの最中な上に、依頼主の名前も素性も分からんようじゃあ話にならん。 たとえいくら金を積まれようが、ウチのモンを誰一人貸しはしねえ」


「貴様ら・・・後でどうなるか分かっていっているのか?」


「うるせえ。 坊主は俺の部下で、ここは俺の会社だ。 危険な上に、所在も曖昧な仕事をさせられるか!」



大隊長は携えていた剣を手に取って立ち上がった。それに続いて、後ろに控えていた大隊長の部下たちも剣に手をかける。


俺も反応して立ち上がったが、大隊長は剣を抜かず、困惑しながら様子を見守る彼の部下たちを尻目に、地面に膝をつき、剣を床に置いた。そのまま懇願するように叩頭した。



「頼む! 失礼は重々に承知の上だ。 だが、国の威信にかけて主の所在は言えぬ!

しかし、どうかこの『依頼』を受けて頂きたい。 依頼主の名がどうしても必要ならば、私が依頼したということにしてくれ! 主には時間が・・・時間が無いのだ!

どうか! どうか!」



しばしの間、沈黙が流れた。


ボスは大隊長の前に跪いた。


大隊長は躊躇いがちに頭を上げた。


ボスは両手でガシリと大隊長の肩を掴んだ。



「だんな! あんた気に入ったぜ!」




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