第2話 【1日目夕方】 雇われ運び屋の日常

厩舎に戻るころには赤い太陽が水平線に沈み始めていた。上空で大きくした横旋回した後、速度を落としながらゆっくり地面に降り立つ。地上では世話役のボルぺ爺さんが出迎えてくれた。半年ほど前にウチに雇われた人で、年は食っているがトリの世話に慣れているし、働き者の爺さんだ。


ボルぺ爺さんからもらった水袋を両手で担ぐように顔の上に持っていき、中の水をゴクリゴクリと喉に流し込む。爺さんはこういうところが気が利いていて助かる。


そのままアソをボルぺ爺さんに託して、その足で倉庫に向かい、ヘルメットやゴーグルを外してラフな私服に着替えたのち、事務所のある建物へと向かった。



ノックをして入った部屋にはたっぷりと髭を生やしていて、いかにも頑固そうな男がパイプを吹かしながら新聞を読んでいる。新聞の表紙には{去年婚約を発表したシリエジオ王女とインパジエンザ次期侯爵が仲睦まじく北部旅行}と書いてあった。



「おう、戻ったか。 どうだ?『新しいの』の調子は?」


「悪くないです。 ただ、速達便用には向かないかと」


「・・・そうか。まあ、詳しいことはそこにある報告書にまとめといてくれ。 なあに、バカみたいに気張る必要はないさ。 お前さんには今まで散々飛び回ってもらったからな。 あと一か月は休暇がてら、新しいやつらの調教を手伝ってくれりゃあいい」



そう言い終えると、頑固そうな男はまたパイプを吹かしながら新聞を読む作業に戻った。



「了解、ボス」



そのあとは夕食を取るために食堂に向かった。硬いパンをスープに浸しながら食べていると、昼間も顔を合わせた男が食堂の扉をくぐった。今はゴーグルもヘルメットも付けていない。相変わらずの人の良さそうな顔がこちらを見つけたようだ。



「おう! コルテロ! お疲れさん! おーーい!! ばあさん!! 今日の献立は何だい!?! あん? 羊のスープと黒パン?! またかよ! ったく! じゃあそれと、ワインボトルを二本頼む! とびっきり上等のやつを頼むぞガッハッハッハ!コルテロ、お前も付き合え!」


「いつもうるさいなベント。 今日は何の記念だ?」



ベントはわざとらしく腕を組みながら難しい顔を作った。



「うーーん、難しいな?・・・じゃあ、王女と次期侯爵公のこれからの仲睦まじい結婚生活を願って?」



思わず少し吹き出してしまった。



「なんだそりゃ?・・・いいぜ、それでいこう」



運ばれてきたワインをお互い手に取り、ボトルごと掲げた。



「これからの御二人の幸せな婚姻生活に!」


「・・・御二人の幸せな婚姻生活に」


「乾杯!!」




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