Fire Bird Rider
癒鷹 Yutaka
第1話 【1日目昼過ぎ】 飛空士コルテロ
「・・・遅いな」
小さくそうつぶやくと、手綱を持ち替えて、体重を左脚に移しながら腰を上げる。
飛行士の動作に合わせるようにトリは翼を少したたみ、体を捻りながら下方へ向けて回転運動を開始する。
2回転、3回転したところで、手綱を引き上げる。膝丈の草原の広がる地面に腹をギリギリ擦るように縦旋回し、そのまま上昇を開始する。
「こういうのはできるんだなあ」
3回ほど似たような動作を繰り返すたのち、近くの丘に降り立たせた。トリの背から飛び降りて、様子を見てみる。身体を上下させながら荒く呼吸をしているが、まだ余裕がありそうだ。
肉の切れ端を与えながら小休止をしていると、同じく人を乗せたトリがバタバタと羽ばたきながら傍らに降り立った。男はトリにまたがったままゴーグルを持ち上げ、人のよさそうな顔をこちらに向けてきた。
「おう! コルテロ! そっちの調子はどうだい!?」
「・・・速達便には向かなさそうだ。 最高速が遅い。 そっちはどうだ?」
「若いトリって感じだ。 落ち着きがねえ。 ほらみろ、地に足ついてるのにまだ羽ばたいてやがる。 っていうかよお、お前さっきスゲーのやってなかったか?」
「・・・頭はいいみたいだ。 乗り手の意図をちゃんと汲み取ってくれる。 あとは実際に遠征をしてみないと分からないが、体力があれば長距離便用として育てられそうだ」
「ヒュウゥ! さすが元軍人様! 完璧な分析でワタクシほれぼれしちゃうわあー」
ふざけ始めた同僚を無視し、チッチッとトリに合図を送った。かがんでもらった首にまたがり、鐙に足をかけた。せいや!っと声を出すと、トリは飛翔の為に力強く羽ばたいた。この様子ではまだ疲れっきってはいないようだ。
(名前は・・・アソだったかな。需要が高まっている速達便には向かないかもしれないが、ちゃんと育てれば良い運びトリになるかもしれないな)
太陽は重たい首を西に傾け始めていた。コルテロは嘴を厩舎の方へ向けた。改めて飛んでいるアソを観察すると、頭の毛先が赤みがかっている。
(アソは確か神話の火の神の名前だったか。ぴったりのいい名前だ)
厩舎へ向かう途中、不意に嫌な予感がした。首の後ろがチリチリするような感じ。前にも感じたことがある。以前はこの後に碌な事が起こらなかった。
周りを見回しても何もない。
空と、草原と、トリたち。
いつもの日常。
ただ、もう事件は始まっていた。
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