第46話 和解への道のり

元々楽しいはずのシチュエーションは今になってすごく居心地が悪かった。


慎也が岸家に来たのは初めてじゃないけど、いつも落ち着かないのも事実だった。年に一度の訪問で真琴の父とあまり話さないけど、向こうの気に入らないそうな顔を見た慎也も機嫌は良くなかった。それで、いつも一泊以上泊まることがなく、新年あいさつが済んだら、帰りたい気分がすごく強かった。


真琴の誘いを喜んで受け入れたが、まさか彼女の父も家にいるなんて知らなかった。今回は慎也と真琴が離婚後初めての対面なので、慎也はちょっと気まずそうな表情で真琴の両親にあいさつした。温かく迎え入れた岸ママといつもの固い表情を見せた岸パパは強烈な対比になった。幸いに、パーティーのムードは始終和やかで、慎也もだんだんリラックスするができた。


正直に言うと、慎也はこの家庭的な雰囲気を恋しくなった。離婚後、慎也は相変わらず家に帰りたくないけど、その理由が変わった。元々仕事上の成功を追い求めるのは目的だったが、いつの間にか真琴と未希の存在でストレスを感じていて、仕事を口実に二人から逃げ続けた。一人暮らしになってから、慎也は家の静寂さが耐えられなく、家に帰ったらすぐテレビをつけて、番組の中から知らない人の声をこの空間を埋め尽くしたかった。一人で食事するのはあまりにも寂しくて、料理を作る気もなく、冷凍食品かあるいはコンビニ弁当を適当に食べた。それでも、心の穴が空いたまま、その虚しさに押しつぶされそうになった夜もあった。


唯一の救いは真琴と未希に会う日だ。携帯でつながっていても、やっぱり二人と一緒に時間を過ごせるのは一番だった。できれば、毎日会いたいと思うけど、今になって2週間に1度しか会えなかった。強引に頻度を増やそうとしたら、真琴の機嫌を損ねるかもしれない。慎也は分かっていた、真琴は自分に会いたくないけど、未希のために一緒に時間を過ごした。その抵抗感をはっきり感じているのは、二人きりになった時だ。だけど、慎也はこのことをどうにもならなくて、ただ境界線を守りながら彼女と接した。


失くしてから初めて分かったのは、真琴と未希は自分にとってどれほど大切なのかってことだ。この数か月間、未希との関係はだいぶ良くなったが、真琴とはまだ見えない壁があった。真琴はなるべく未希の前では、両親であることは変わらないという姿勢を貫いた。


食事の後、慎也は真琴の父に呼び出され、二人の男は庭にあるベンチで座っていた。最初は無言なまま、食後のコーヒーを飲んでいたが、真琴の父は先に話しかけた。


「慎也くん、最近はどうなってる?」


一瞬、慎也はこの質問の意味を分からなかったので、どう答えるべきか戸惑っていた。それを察したのか、真琴の父はこう話した。


「別に深い意味がないから、そんなに固くならなくていい」

「すみません、突然の質問ですから」

「久しぶりに会ったから、それで気になっている。前と比べてちょっと痩せたみたいで」

「まあ、家庭料理を食べられなくて、こうなっても当たり前です。しかし、この質問をどう答えていいのか分かりません」

「別に正解を求めているじゃないけど」

「正直に言うと、あまり良くありません。でも、全部は自業自得だと思います。一番いけないのは真琴と未希を散々傷つけたことです」

「まあ、それって俺にも責任があるかもしれないなあ」

「いいえ、そんなことはありません」

「俺はもしあの時あなたのことをもっと良くしていてたら、あなたをそこまで追い詰めならなくて済むだ。仕事に情熱を持っているのはいいけど、結果的に家族を失ったら、すべてが無駄になるじゃない?俺の例を見れば分かる。真琴が子供のころ、俺は彼女とあまり一緒に過ごせないせいで、俺たちの関係はいいとは言えない。それに、俺は彼女の兄たちばかり見ていたせいで、真琴は自分が愛されていないと思い、ずっと俺と距離を取っていた。正直、彼女はあなたと結婚した時、俺は怒っているというより、彼女がこの家から離れていくことを惜しんでいただけだった。それで、自分の娘を奪いに来たお前にいい顔を見せられなかった」

「よく分かります、それは本当にいけなかったでした。一度もお父さんとお母さんと会ってないのに、いきなり現れて、真琴を妊娠させたことの報告を受けたら、どの親でも許されないでしょう」

「でも、真琴さえ良ければそれでいいと思った。結局、あなたたちは離婚したけど、俺と真琴はそのおかげで関係が改善した。皮肉なことでだろう?」

「私だって、離婚してからようやく未希とちょっと仲良くなれたので、本当にもっと早く自分のいけないところを気づけばよかった」

「それで真琴とはどうなってる?」

「もちろん、彼女ともう一度一緒にいたい。だけど、そう簡単ではないです。真琴は一旦心を閉ざしてから、なかなか許してくれないと思います。それでも、俺は頑張ります」

「未希とまず仲良くなれたら、その後はどうにかなるだろう。真琴は心優しい人で、誠意を見せればきっと通じると思う」

「だといいんですけど。でも、私は覚悟をできたので、どんなに時間をかけても諦めないです。だって、真琴は俺のわがままを10年以上耐えてきたですから」


真琴の父はこれを聞いて安心した。自分の娘の幸せを誰より望んでいたから、もちろん彼女を傷つけた慎也に最初は怒っていたが、彼の反省する姿を見て、思わず応援したくなった。


一方の慎也は、真琴と結婚して以来初めて義父とこんな会話をした。すごく怖い人だと思ったけど、案外真琴のことをすごく気にかけている。これからの道のり決して平坦ではないが、慎也は自分が失った家族を取り戻すために、何でもすると決めた。


二人の男が話しているところを家から見ていた真琴は複雑な思いをした。自分にとってとても大切な男たちは今になってようやく二人きりで話せるようになり、それは喜ぶべきと思った。だけど、今更になって、こういう光景が見られて、なんだが虚しく感じていた。


慎也は必死に自分と未希の関係を修復しようという努力を見てきた真琴は、自分がちょっとづつ動揺していることを自覚した。それでも、彼女は慎也を許さないという気持ちもあった。昔のようにまた傷つけたら、きっと耐えられないと思う。それに、真琴は未希に安定な家庭環境を作りたい一心で離婚したから。慎也のことを完全に信じるわけではないから、しばらく彼との関係を考えたくない。


様々な思いを交差しながら、彼らは別れてから初めての春を迎えた。

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