第47話 動き出す春

2019年3月・東京


牧野先輩と会った後、陸翔はずっと家にこもって、晴夏の作品をひたすら読んていた。


一番不思議だと思っていたのは、マネージャーの仕事をしながらでも、晴夏はいったいどうやってこんなにたくさんの作品を書いたか。陸翔の仕事量からみると、晴夏は結構力を入れて、陸翔のために仕事を取っていたはずなのに。空き時間があったとしも、ここまでできるとは想像にくいだった。やっぱり、彼女は自分の休憩と睡眠時間を削ってまで、書き続けていただろう。一つ一つの作品はどれも丁寧に書いていて、しかもすべてがしっかりした集材の元に作り上げたものだった。


その中に、ある長編小説は陸翔にとって印象深いだった。なぜなら、この物語はまさに彼と晴夏のラブストーリーだった。設定はだいぶ変わったが、主人公の二人は大学時代からのカップルで、いろんな困難を乗り越えてようやく結ばれた。しかし、二人は社会人になってから、すれ違いや現実的な問題で関係が崩れて行き、やがてお互いを手放すことを決めた。


これはどこでもあるそうなストーリーだけど、陸翔を感動させたのは、主人公の気持ちの描写だった。これらのセリフを通じて、晴夏はいったい陸翔との関係をどう思っているのを初めて分かった。


小説自体には、この関係がダメになった原因は男性主人公一人のせいではなく、二人にも責任があるということを強調していた。だから、陸翔は晴夏に対しての申し訳ない気持ちがまた強くなった。現実では、陸翔は落ち度があるのに、フィクションの世界で晴夏はその責任を彼一人に背負わせなかった。


この小説を読み終わった時、陸翔は泣いた。自分は涙もろいの人ではないし、いつも演技をしている時だけは泣いていた。しかし、今回で二回目、しかも全部晴夏絡みのことで泣いた。成人になってから、初めて泣いた時は晴夏がいなくなったことを知った日だった。


そして、陸翔はあることを思いついた。これを実行するために、彼はまず牧野先輩に連絡した。



2019年4月・静岡


半年以上の努力をして、今日は晴夏の店のオープニング日だ。


この店を立ち上げる目的は、安らぎを感じられるところで、一人一人のお客さんに美味しい料理を提供することだ。その一人一人との関わりを重視したいという思いで、店の名前は「TSUNAGARI」になった。


10数年前、晴夏がこの店のアイディアを初めて打ち明けた相手は真琴ではなく、陸翔だった。あの時、彼はこの計画に関していろんな意見をあげていた。その中に、彼は特に店の名前を英語にした方が絶対いいと強調した。


「ほら、もしひらがなか漢字で書いたら、外国からの人はこの名前が読めないじゃん。だから全世界の誰でも読める名前にした方が絶対にいいよ」

「あのね、私の店は別に世界の観光客向けのところじゃないんだから。それに、ここは安らぎを提供するところなのに、行列ができたら非常に困るんですけど」

「晴夏は変だね。店を立ち上げてというのに、金儲けが目的ではないとは言え、少なくとも赤字にならない方が重要だ」

「大きなお世話だね、私の店に手を出さないでよ」

「じゃあさあ、俺はそこで一日店長になったらどう?きっとお客さんは沢山来るから」

「勘弁してよ~あなたはキャーキャーを求めるんだけど、こっちはそんな迷惑な話を断りたいよ。それに、あなたはまだそこまでの人気と影響力がないでしょう?だったら、夢なんかを見ないで、さっさと課題を終わらせて!」


あの時、二人はまだ大学生で将来の夢を描きながら、恋人同士の甘い雰囲気に思い存分浸かっていた。何だかそれは遠い昔の話になったみたいで、懐かしようなそしてどこか虚しく感じていた。


別れてからもう一つの季節が過ぎていったが、陸翔からの連絡はなかった。これで彼はもう現実を受け止めたでしょうと思って、晴夏はちょっと安心した。しかし、彼女の心のどこかで、寂しさも感じていた。自分は本当に矛盾だらけの女だね、晴夏は内心でそう思った。


今日という大事な日に、晴夏のもう一つの夢が叶えた。


執筆活動と並行するので、晴夏は日常の経営を店長に任せるおかげで、自分はキッチンの仕事に集中できた。料理長とメニューを決まり、作り方を確認して、試食も実施し、そして使う食材の確保もしていた。最初の一か月ぐらい、店はランチとティータイムの営業のみになったが、後に客数が安定してから、営業時間の見直しをするつもりだ。


オープン初日のランチセットは2択があった。一品目はチキンカレーライスで、そして二品目は豚肉を使う肉じゃがだ。誰にも知らないけど、この二つの料理は陸翔の大好物で、大学生時代では金銭的な余裕があまりない二人にとって、すごく貴重で思い出深いの料理だった。それで、晴夏は初日にどうしてもこの二品を出したかった。でも、晴夏は陸翔に店のことを知らせていないし、彼をオープニングに招待することもなかった。せっかく彼の大好物を出したのに、彼はそれらを食べることが出来なった。


店の開店時間になって、大勢の客はすでに外で待っていた。まさか初日からこんなに多くの人が来てくれて、晴夏はとても喜んでいた。忙しいランチ時間が終わって、晴夏と真琴は店内の一角でお茶を飲みながら、休憩時間を楽しんでいた。


「まさか初日からこんなに繁盛だなんて、いいスタートですね」

「マコ、さっき手伝ってくれてありがとう」

「まあ、あんなに忙しかったから、それぐらいは平気よ。だって、私も出資者の一人だからね、自分の店のことをやるのは大したことないし。そう言えば、慎也は今日来れないだけど、一応花を送ったから」

「慎也さんとマコ、どうなったの?」

「どうって?」

「最近、未希と結構仲良くなったでしょう?未希はよくパパとのチャット画面を私に見せていた。あの二人、よくしゃべるね」

「本当、いったい彼はいつからこうなったの?昔、家で何も~話さなかったけど」

「マコはまんざらでもないみたいね。だって今の慎也さんは昔の彼と大違いだから」

「変わっていても、変わらなくても、私には関係ないだから」


丁度その時、花屋の人が大きな花束を抱えて、店の中に入った。どうやら、誰かが晴夏に花束を贈った。晴夏はその花束を受けて、中にあるカードを確認した。


「晴夏へ、開店おめでとう。陸翔」


真琴はカードにある文字を読んで、晴夏にこう言った。


「ただそれだけ?素っ気ないね、もっとたくさん書いてくればいいのに」

「そう言えば、陸翔はなぜ店のことを知ったんだ?」

「私じゃないけど、容疑者は多分うちの親子でしょう。最近、慎也は陸翔と会ったし、未希も陸翔との連絡も続いていたから」

「別にそれはいけないこと…」

「気分はどう?」

「何?」

「久しぶりに陸翔からの花、しかもあなたが大好きのユリだよ」

「特に何も感じていないから。でも、後で一応ありがとうぐらいを言いたい」

「晴夏はさあ、陸翔とは…」

「もう終わったから」

「でも、私はちょっと期待外れという感じがした。てっきり彼はしつこくあなたに付きまとうじゃないかと思った」

「一応全国的に名を知れた俳優だから、そんな無茶をしないでしょう」

「で、もし本当に押しかかてきたら?」

「私はもう19歳のころの私じゃないから、振り返るつもりは一切ない」


そう言ったが、晴夏は自分のことを一番分かった。自分ではまだ陸翔への気持ちを整理できなかったから、もし少しでも動揺したら、きっと昔と同じ過ちをするでしょう。


一日目の営業がようやく終了し、明日の準備も済ませてから、晴夏は二階にある自宅へ帰りたいと思った時、誰かが店の正門にノックしていた。この時間は誰も来ないはずなので、晴夏は恐れながら門のところへ近づいた。そしたら、来客の正体を確認してさらに驚いた。


その人は来るはずがなかった陸翔だった。

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