第45話 アイスブレーカー

真琴は目の前にいる慎也を見て愕然とした。


知り合って、付き合って、結婚して、そして離婚してまでの長い年月に、慎也はこういう姿を見せたことがなかった。今、家族3人で一緒にちびまる子ちゃんランドにいた。こんな可愛らしいところで、慎也は何の抵抗もなく、未希と楽しそうに体験ゾーンを回っていた。


昔、慎也と遊園地デートをしたい真琴は、何度も彼を説得しようとしたが、彼はすごく嫌がっていて一度も同行しなかった。それは単なる遊園地の乗り物に興味ないじゃなく、彼はどうやら男がそんなところへ行ってカッコ悪いだと思っていたらしい。だから、真琴は慎也とこんなところで遊ぶ思い出はなかった。


しかし、未希のためなら、今の慎也は何でもする。


離婚前では、同じ家に住んでいたけど、慎也と会うことすら難しかった。今になって、彼は未希と会うために、時間を惜しみなく東京と静岡の往復して、全然苦労だと思わなった。元々月1の頻度で会う約束だったのに、慎也は2月に入りそれを2週間に1度へ増やそうと真琴にお願いした。


最初、未希は慎也のことを警戒していた。今まで自分への関心がないのに、いきなりそんなに優しくされたら、誰だって疑うでしょう。しかし、二人は携帯で繋がっていたら、距離が一気に縮めて、会う時の気まずさは少しづつ無くなってきた。


3月の春休み、慎也は未希が中学に入る前に、彼女が好きなところへ一緒に遊ぼうと提案した。そして、ちびまる子ちゃんの大ファンである未希は、ちびまる子ちゃんランドを選んだ。これを聞いた真琴は嫌な予感をした。だって、普通に一般の大人が行ける遊園地でさえ抵抗感が半端ないのに、子供向けのちびまる子ちゃんランドへ行けるはずがなかった。しかし、慎也は即答で未希のお願いを受け入れた。


あっちこっちを回った後、慎也と未希はグッズショップで商品を選んでいた。あまりにも多すぎる量で、真琴は二人の「暴走」を止めようとした。


「いくら何でもこれは買いすぎでしょう」

「せっかく来たのに、今回だけは許してくれ」

「だめ、子供を甘やかしすぎです。未希、今回は2点までだから、この中から今欲しいものを選んで、残りは元の場所へ戻してね」


未希は悲しそうな表情で慎也を見ていたが、彼はここで真琴のしつけに口を出さない方がいいと判断した。


「未希、今回はママの話を聞いた方がいいよ。もし、ここが好きなら、また一緒に来ればいい。その時、また何かを買ってあげるから」


未希はまた笑顔になり、残りのものを元の場所へ戻した。


「あのね、軽々しく未希に約束しないでくれる?」

「何が?」

「また一緒に来るって、また何かを買ってあげるって、本当に次はあるの?」

「あるよ、あなたがそれを許してくれるなら」

「仕事でまた来なくなったら、時間がなかったらどうする?また未希を失望させる気なの?」

「もうそんなことはしないから、絶対に」


それでも、真琴は慎也の言葉を完全に信じていなかった。今まで自分と未希を失望させたので、また慎也に何かを期待していたら、きっと傷づくでしょう。だけど、今の慎也はもう昔の彼ではなかった。自分がしてきたことを反省しているし、そして生まれ変わった自分を真琴と未希に見せて、また二人の信頼を取り戻そうとしていた。


ちびまる子ちゃんランドから帰って来た未希は、自分の部屋で楽しそうに慎也が買ってもらったものとそこで撮ったたくさんの写真を笑顔で見ていた。真琴は未希の様子を見に来た時、就寝時間がすでに過ぎたのに彼女はまだ起きていた。


「未希、まだ寝ないの?」

「ママ、見て!これ可愛いでしょう?写真もいいじゃない?」

「未希、今日はとても楽しかったみたいね」

「うん、パパとママと一緒にちびまる子ちゃんランドへ行ったから、楽しいよ」

「未希は今パパと会っても緊張しないよね?前はあんなに嫌がっていたのに?」

「…嫌じゃないけど、パパは怖いかったから。昔、私と話をしなかったでしょう」

「じゃ、今は?」

「写真を送ってくれたり、いろんなことも話してくれたり。パパはそんなに怖い人じゃないみたい」

「そう、じゃ未希は今パパのことが好きだね」

「でも…」

「でも?」

「パパは今のままになってくれるの?それとも、いつか前のパパに戻るの?」

「そこが心配なんですね」

「うん、今のパパが好きだから。ママはどう思う?」

「…今のパパはいいね」

「そうだよね!」


未希は急に黙り込んでいて、表情が少し暗くなった。


「どうしたの?急に黙り込んで?」

「ねえ、ママ。中学の入学式にパパを呼んで来てもダメなの?」


真琴はこの突然のお願いに困惑していた。


「どうして?」

「だって今までの学校行事に、パパは一度も来てくれないじゃない。だから、今のパパなら、来るかもしれないと思って」

「未希がそうしたいなら、ママはパパに聞いてみる」

「本当?やった!」

「もう遅いから、早く寝て。明日、パパに電話を掛けるから」

「ありがとう、ママ!じゃ、おやすみなさい」


真琴は自分の部屋に戻った。正直、未希がこんな短時間ですっかり慎也と仲良くなったのは予想外だった。11年間の溝がたった2か月で埋められるのは、一番の理由はやっぱり慎也の変化だった。彼が誠意を持ってちゃんと未希と向き合うことを見れば分かっていた。だけど、昔の傷と嫌な思い出はそんな簡単に消せない。未希がもし彼の行動でまた傷つけたら、それだけを思うと、真琴はどうして耐えられなかった。


しかし、未希が自ら言い出したことを無視するわけにもいかない。真琴はしかたなく、慎也にメールを送った。まるでずっと携帯をチェックしていたように、慎也はすぐ返信をして、未希の入学式に参加することを約束した。


慎也は未希の誘いにすごく喜んでいた。実は、彼もその入学式に参加したかったけど、未希と真琴はどう思うかを恐れて、中々自分から言い出せなかった。だから、未希からの誘いを受けて、慎也は舞い上がるようにうれしかった。


万が一のことがないように、慎也は式の前日に静岡へ行って、そのまま現地に泊まった。当日の朝、慎也は待ち合わせ時間の30分前、学校の正門に待っていた。彼のソワソワした姿を見た真琴と未希はお互いを見つめ、安心して笑顔になった。正直、二人は慎也が来ないかと心配していた。彼は今回約束をちゃんと守れて、二人はほっとした。


無事に入学式が終わり、家族3人は校門のところに記念写真を撮った。慎也がいつも家にいなくて、3人の家族写真があまりにも少なかった。皮肉なことに、慎也と真琴が離婚したおかげで、今回はようやく3人でまた家族写真を撮られた。満足している未希を見て、慎也は自分の娘の成長に感動している同時に、今まで彼女の成長に参加しなかったことにとても後悔していた。


慎也は真琴と未希を家まで送って、そのまま帰ろうとしたが、真琴が彼に声をかけた。


「せっかく来てくれたから、未希の入学祝いパーティーに参加しない?うちで家庭料理を食べるだけの集まりだから、良かったら一緒に入ろう」

「はい、喜んで!」


まさかの誘いで、慎也はすごくワクワクして、二人の後ろについて岸家に入った。しかし、彼が浮かれすぎて忘れてしまったのは、自分の最大のストレス源である岸パパも同じ家にいた。

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