第43話 敵を味方にしよう・上篇

陸翔の場合は、慎也と比べてそんなにうまく行かなかった。


慎也が元々晴夏とはそんなに親しい間柄ではないから、陸翔のために彼女の情報を手に入れようとするのは結構苦労をした。直接真琴に聞けないし、未希に通じて何かを聞こうとしたらさらに怪しまれるだろう。いきなり晴夏のことに興味を示したら、慎也は陸翔のために情報収集していることがすぐにバレると思う。


晴夏から周りの人に口止め令とかを出していなかったけど、二人の関係を知った人たちは暗黙の了解があるように、彼女の前に陸翔のことをすら提起しなかった。もちろん、彼に晴夏の情報を流すのもあり得なかった。


晴夏は物書きの仕事をしながら、カフェの経営も携わっていた。マネージャーをやっていた時と比べてもっと忙しいだけど、彼女は好きなことをしていたから、全然苦労だと思わなかった。真琴から聞いた話では、晴夏は春の開店へ向けて、すでに店長を雇っていたから、今は従業員の確保とトレーニング、そしてメニューのことで大忙し。


ただ、陸翔の運がいい時もあった。真琴は晴夏と同じところで事務所を構っているから、時々仕事の話をしている真琴は晴夏のことも言及した。例えば、晴夏のカフェの設計と内装は真琴が担当していたので、慎也にそのカフェの3D動画を見せたことがあり、それを陸翔に言葉で描写した。しかし、こういう間接的に得られた情報は陸翔にとって物足りないと感じていた。


この状況を見て来た慎也は何とかしたいと思ったが、自分の力ではどうして限界を感じてた。それで、慎也はある作戦を陸翔に提案した。


「陸翔には一番必要なのは味方だけど、皆は晴夏に忖度している感じで、あまりあなたと関わりたくないのは現実だ。それで思いついたことは、あなたの敵を味方してみないか?」

「ええ、それどういうこと?」

「あなたのことをあまりよく思わない人や、あなたに敵意がある人、あるいはあなたにとってライバルだと思う人を自分の味方にしよう」

「どうすれば?」

「まず、自分の誠意を見せないといけない。あなたは本気で晴夏のことを愛していることを証明して、そしてあなたはもう過去の自分じゃないことを示さなきゃ。その人たちはあなたを信じていれば、きっと晴夏があなたに対する考えを変えさせられると思う」

「そううまく行けるかね…」

「今の君にはこれしかないから。丁度今仕事を休んでいるだろう、時間がたくさんあるから。その人たちにあなたの誠意を見せ、そして彼女の周りの理解と信頼をもう一度得る。最終的に晴夏があなたを許していたら、それで復縁の可能性がある。だけど、この作戦には、あなたにとってかなり辛いかも」

「どういうこと?」

「あなたのライバルやあなたを敵視した人に頭を下げることはできるか?プライドを捨てないといけない時があるかもしれないし、そしてそう努力しても、もし晴夏の気持ちを変えないなら、すべては無駄になる」

「それでも平気。晴夏が俺のところへ戻られたら、何でもする。それに、一回で成功するってあり得ないから、覚悟している」


そう自信満々で言い張ったけど、陸翔は実際にやってみるといろいろ大変だった。



二月から長期休みを取っていた陸翔の初のターゲットは晴夏の父・泰輔だ。大学時代一度泰輔と会ったけど、あの出会いは泰輔にあまりよくない印象を残しただろう。それ以来20年近く、会うどころか、晴夏と一緒に実家への訪問は一度もなかった。一体どんな理由でそんなことをしたか、陸翔自身でもあまり覚えていなかった。でも、この長い間の言い訳は多分仕事関連か、それとも交際の事実が世間にバレたらいけないみたいのものだろう。


今になって、陸翔はそれらが本当にくだらない理由だと認識した。それでも、晴夏は毎年のように陸翔と一緒に彼の実家へ行ったのに。自分の娘とこんなに長い間ダラダラした付き合っていたが、一度も二人の関係を周りに知らされないので、どの親でもこんな交際相手のことを気に入らないのは当然だ。


泰輔の連絡先は知らないので、未希に通じて晴夏の実家の住所を知った。最初は泰輔の職場へ行った方がいいと思ったけど、その出版社の週刊誌編集部も同じビルにいたから、そこへ行ったことが大騒ぎになるのは間違いなかった。今は休暇中ということもあって、彼の居場所を知りたいマスコミがもし静岡エリアで嗅ぎ回ったら、彼の計画はうまく進めないだろう。


仕方なく、陸翔は断りなく秋山家へ行った。丁度その時、泰輔は外出していたので、彼の妻である由里子は陸翔を家へ招いた。客間に案内された陸翔は、晴夏の実家を興味津々で見渡した。あっちこっちは秋山家の家族写真で、その中にある数枚は晴夏の子供と青春時代の写真が飾ってあった。陸翔は思わずその中の一枚を手に取って、写真の中にある晴夏の笑顔を見つめていた。


由里子は客間に戻り、テーブルの上にお茶を置いて、陸翔に飲むように促した。


「お茶ありがとうございます。急に押しかけて来て、本当にすみませんでした」


陸翔は事情を由里子に説明して、彼女は笑顔でこう答えた。


「なるほどね。まあ、有名人だから、出版社へ行くにはちょっと不便でしょう」

「どうしても泰輔さんに話をしたいです」

「晴夏ちゃんの件ですか?」

「ええ。それで、泰輔さんに謝らなければいけないことがたくさんあって」

「あの人はね、多分あなたを叱るここはしないと思います。だって、晴夏ちゃんは一度もあなたの悪口なんて言ってないもん、別れの理由は自分にも非があったと言いました。そこまで言われたら、さすがの泰輔はあなたを責めることができないかもね」

「そうですか?申し訳ございません、実は俺が原因なので…」


丁度その時、泰輔は家に帰り、客間に入って陸翔の姿を見た瞬間、彼は眉をひそめていた。しかし、泰輔はすぐ自分の表情を変え、何も言わずに陸翔の反対側の席に座った。由里子は夫にお茶を差し出したから、静かに客間を出た。二人きりになった泰輔と陸翔は沈黙したまま、すごく窒息しそうな雰囲気に包まれた。そしたら、泰輔から話をかけた。


「どうしてうちに来ましたか?」

「お父さんに話したいことがあって…」

「その呼び名、やめた方がいい。あなたは晴夏と結婚してないし、名前で呼んでほしいです」

「すみませんでした、泰輔さん。実は今日来たのは、説明したいことがあって、そして謝りたいこともあります」

「晴夏の件なら結構です。ある程度事情を理解していたので、これ以上説明しなくてもいいです」

「さっき由里子さんから聞きましたが、晴夏は俺がしたことを家族に言わなかったようです。でも、俺たちが別れたのはすべて俺の責任です。」


陸翔は全部のことを泰輔に話したら、泰輔はこう答えた。


「じゃ、今日ここに来たのはどういうつもりですか?俺たちに許して欲しいとでも言いたいですか?娘の気持ちを考えると、俺はこんなことができると思いますか?」

「いいえ、泰輔さんは今の俺を許さないのは分かります。今日ここに来たことは、あなたにすべてを打ち明けたかっただけです。それと俺は晴夏に対する気持ちが変わっていないし、彼女が俺を許すまで、俺は諦めずに努力します」

「晴夏は何かを決めたら、気持ちを絶対変わらないと思います」

「どんなに時間をかけても、俺は諦めませんので」

「俺はあなたの手伝いや応援なんかしないです」

「承知します。俺の話を聞いただけで十分です」


秋山家から出た陸翔を見送ったのは泰輔ではなく、由里子だった。陸翔をちょっと励まそうと思ってこう話した。


「陸翔くん、泰輔はね、晴夏ちゃんのことをとても大事にしています。だから、実家に帰った晴夏を見て、父としての彼はあなたのこと良く思えないのは分かるでしょう」

「はい、それは当たり前です」

「でも、今の晴夏ちゃんはすごく前向きに自分が好きなことをしています。彼女の気持ちはどうであれ、あなたはもし本当に彼女ともう一度一緒にいたいと思ったら、そんな簡単なことではないと思います。泰輔はあなたの手伝いや応援などはしないと言ったけど、逆に言えば彼はあなたの邪魔もしないということだから。せいぜい頑張ってね!」

「ありがとうございます」


深々と頭を下げた陸翔は秋山家から去って行った。



次のターゲットは真琴だ。


彼女は晴夏の一番の親友で、陸翔に対して今はどう思っていたか分からなかった。でも、確かなのは、真琴は陸翔に対する考え方が、多分いい方だと思わないだ。


陸翔と会うことが晴夏に知られたくないと思い、真琴は自分の事務所ではなく、別の場所で待ち合わせすると指定した。そして、彼女は陸翔と会ったら、先に話をした。


「正直、私のところに来るとは思わなかった。しかも、あなたは晴夏と別れてから2か月未満なのに。これは何、お詫び行脚あんぎゃなの?」

「俺と晴夏のことはよく知っているだろう?」

「まあ、いいことも悪いこともね」

「まず、聞きたいことがあるので、教えてくれないかな?」

「何のこと?」


陸翔はカバンから晴夏が入院した時の領収書を真琴に見せた。


「どうしてこんなものを?」

「晴夏は事務所に落としたみたいで、スタッフが俺に渡して欲しいと言うから…」

「じゃ、私はこれを晴夏に渡そう…」

「晴夏はその時何かあった?」

「今さら聞いてどうするの?」

「これは多分、俺と彼女がダメになった決定的な出来事かもしれない。俺は知りたいです。死刑囚だって、死ぬまで自分の罪を知らないと反省もできないから」

「詳しいことは言えないけど、彼女はあの時大変だった。私は丁度東京にいないから、あなたに助けを求めたけど、結局牧野さんを頼って何とか助かった。その後、あなたがしたことは週刊誌で見たら、それで即アウト。もう分かったよね、晴夏が一番許さないことをした君を許されると思う?」


これを聞いた陸翔はようやくあの件の意味と重さが分かった。それでも、彼は諦めたくなかった。


「俺はしたこと当然許されないと思う。だから今は晴夏に謝りたいし、そしてもう一度彼女と一緒にいたい」

「謝らなくてもいいじゃない?今の彼女はあなたの懺悔なんかいらないと思うよ。でも、そうしたいなら、そうすればいい。だけど私と会っても、手伝わないから」

「分かる。でも、せめて晴夏の周りの人に知ってもらいたいのは、俺はもう自分の過ちをよく分かったこと、そしてこれから晴夏のために何でもすること。皆の応援なんか望めないけど、俺たちのことを見守ってくれたらありがたいだ」

「そのことなら、私はあなたの邪魔なんかしないけど、晴夏の前にあなたのいいことも言わないから」

「それだけで十分、ありがとう」


真琴は正直に言うと、陸翔がそんな簡単に自分の過ちを認めて、そして晴夏を取り戻せたいの決心に驚いた。しかし、晴夏の心に深い傷が残っていて、陸翔が成功できるはずがないと思った。


「じゃ、私から一つの忠告がある。もう一人が晴夏の考えに影響を与える人がいて、その人はかなり手強い相手です。もし、その人はあなたの味方になれば、あなたの勝算も上がれる。でも、あなたはその人に頭を下げるの?」

「分かる、だからくだらないプライドを捨てる覚悟で、あの人に会いに行くつもりだ」


そして、陸翔は最後の相手へ会いに行くことをした。

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