第42話 味方作戦の始まり

今の状況は非常に奇妙だ。


慎也と陸翔は知り合ってから20年近くになったが、二人のつながりは親友である真琴と晴夏だったので、強いて言えば彼らは親しい間柄ではなかった。しかし、今になって、振られた同士の二人は愛する女と復縁できるため、お互いの味方になる作戦を始めた。


真琴と仲直りできる鍵はやっぱり未希との関係を修復することだった。しかし、未希の12歳誕生日の食事会では、彼女の反応は予想通り良くなかった。それで、慎也は陸翔から未希に関することを聞いた。


「未希は一般の子と比べて繊細で、真琴を心配させないためにいつも大人ぶっている。だから、彼女を子供扱いすることは絶対だめだ、ちゃんと大人同士みたいに対等の扱いをしないといけない。まず、彼女とのコミュニケーションを増やそう。お互いのことをちょっとづつ分かるようになってから、直接会う時にもっとリラックスできるはず。それと、未希に関することは必ず真琴と相談してから行動するんだ。自分が勝手に決めたら、真琴はあなたが自分の気持ちを無視すると思われるかもしれないから、そこも注意だ」


陸翔の意見を参考した末、慎也は真琴に提案をした。


「未希の中学入学祝いとして携帯をあげたいだけど、どう思う?」

「何でいきなり携帯を?」

「ほら、今別々で暮らしてるじゃない?もっと未希とコミュニケーションをしたいけど、彼女は俺に対してまだ拒絶している。月に一回ぐらいで会うと、いつまで経っても俺たちの距離は今のままだと思う。だから、携帯があれば、未希といつでも連絡できるし、お互いのことをもっと知れるだろう」

「私は別にいいけど、慎也はそうしたいならすればいい。それにしても、意外だね」

「何が?」

「今までのあなたなら、きっと自分で決めてから、私に伝えるだけ。今回は相談だなんて…」

「俺はひどかっただよな?今になって分かったけど、本当に最低だ。家族のことなんだから、一人で決まったからあなたに言うだけというのは、あなた達の気持ちを無視し尊重もしなかった。でも、今からもうそういうことはしないから、安心して」


今の慎也は確かに今までの彼と比べて大きく変わった。彼は離婚が成立した後から、未希との関係を修復しようとしたが、案の定彼女の反応は冷たかった。すぐに長年自分に無関心の父親を受け入れるなんて、至難の業だと皆は分かっていた。だから、真琴は無理をせず自分の意思で決めればいいと未希にそう伝えた。そして、真琴自身はあくまで父娘の間の架け橋で、慎也の味方になるつもりはなかった。


しかし、今回の件で、真琴は慎也のことをちょっと見直した。今までの彼なら、「相談」という二文字は彼の頭の中に全然ないから、いつも強行突破のスタイルで家庭内のことを決めていた。その反面、真琴は慎也の変わりがどこまで続くかを分からないから、あまり期待しない方がいいと判断した。


2月の食事会の時、慎也は未希に最新型のスマホをあげた。今まで、未希は慎也から直接渡されたプレセントがなかったので、彼女は思わず真琴の方へ見て、信じられるない表情を見せた。そう言えば、未希は小学生になる前、自分がもらったおもちゃとプレゼントの一部は慎也からの物がと信じていたが、ある日を境に未希は事実を知ってしまった。慎也からあげたはずのプレゼントはすべて真琴が買ったものだった。だから、今の未希は慎也から送ったスマホを握りしめて、目で真琴に確認を取りたかった。未希の疑問を気づいた真琴は笑顔で彼女に言った。


「これは本当にパパ自分で買ったものだよ。私には関係ないだからね」


だけど、確認を取れたとは言え、未希はさらなる悩みが湧いてきた。このスマホを受けたら、慎也と頻繁に連絡を取らなければいけないという意味でしょう?慎也は困惑した未希にこう言った。


「心配しないで、未希はその気になったら、パパのメールへ返事しなくてもいいよ。だから、したくない時はそうすればいい。パパが送るメールは俺のひとりごとだと思えばいい。未希がいつ興味あるんなら、それを読めばいい」


最初の数日、慎也からのメールはただ朝と夜のあいさつぐらいだった。だけど、陸翔はこれがダメって言われ、慎也にもっと書くようにと助言をした。あまり長文のメールを書かない慎也にとって、未希に送るネタが段々なくなり非常に困っていた。しかし、陸翔は彼に言った。


「あなたは未希にもっとあなたのことを分かって欲しいなら、自分のことを積極的に話さなきゃいけない。だって未希からの質問はいまのところ来ないだろう?それにネタがないと困っていたら、思い出せよ。昔、真琴と付き合っていたころ、自分のことを彼女にどう教えただろう?」

「いや、あの時は一問一答形式だった」

「どういうこと?」

「真琴が知りたいことを俺に聞いて、それから答えるのスタイルだから」

「通りで今は娘とうまく会話を続かないだ。とにかく、まず写真とかを送ればいいじゃん?例えば、今日は何を食べたかの写真を送ってから、その後さりげなく未希に何を食べたのと聞いたら、会話は続けるだと思う」


陸翔が教えた通り、慎也は自分の食事や周りのものを撮影するようになり、その写真にいつも一言ぐらいの説明が付いていた。最初のうち、既読マークがついていたが、未希からの返事はなかった。すっかりあきらめ気味の慎也は、ある日ようやく未希からの返事をもらった。その返事は慎也が晩ご飯のコンビニ弁当の写真についてだった。


「パパ、毎日コンビニ弁当を食べると、健康によくないです」


娘からの気遣いを見て、慎也は泣きそうになった。もちろん、その写真を送ったというのは、自分が惨めな生活をしているように感じを与えたいわけじゃなく、ただ未希に自分の食の好みを教えたいだけだった。まさか未希が注目したところは、慎也が頻繁にコンビニ弁当を食べていたことで、そして彼の健康に心配になったこと。


それから、慎也と未希は携帯を通じて交流が増えてきた。最初はただ写真の送り合いと短いメッセージの交換だけど、段々書くことは多くなり、そしてメッセージも長くなった。真琴は時々未希からそのやり取りを見せられ、二人が仲良くなったことをうれしくなった。やっぱり離婚しなかったら、慎也は未希との問題を直視しないし、それと何の努力もせず娘と疎遠のままになるでしょう。


そして、さらなるびっくりすることが発生してしまった。


3月の食事会の際、慎也は未希と真琴にこれを言い出した。


「あの、未希の中学の入学式に参加させてください。俺は未希の学校行事に出席したことないから、今回はできれば参加したいです、もし君たちが良ければ」


正直、真琴の考えでは、離婚した元夫と一緒に娘の入学式に参加することに抵抗があった。周りはもし慎也が一緒に静岡で住んでいないことを知れば、きっといろいろ聞かれて、それは未希にとって迷惑になるでしょう。それに、今まで何度も約束を破っていたから、慎也は今回本当に来られるかどうかにも懸念があった。もっとも重要なのは、未希は慎也の出席を欲しがっていないようだ。


しかし、このお願いを聞いた未希は予想外の答えを言い出した。


「パパが来ればいいと思います。ママ、大丈夫なの?」


まさか、未希が慎也の参加を望んでいるとは知らなかった。だけど、こうなると、真琴は内心でどんなに嫌がっていても、慎也に入学式を参加させない理由がなくなった。

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