第41話 一人では耐えられない
陸翔は新年に入ってからまるで別人になった。
今までの陸翔は仕事とプライベートの時全然違う人だった。演技をしている時の集中力は半端ないってよく言われ、仕事に対しては絶対妥協せず、時々周りに厳しく要求するし、きつく当たったこともあった。しかし、オフの時の彼は愛想よく気配り上手で、だから一緒に仕事してきた人たちは彼のことどうしても憎めなかった。
晴夏が事務所を辞めてから、陸翔の後任のマネージャーとスタッフはずっと戦々恐々としていた。彼の気持ちの変化をうまく気づくのは晴夏だけだったし、彼を落ち着かせることができるのも彼女しかいなかった。だけど、今の陸翔は怒るどころか、ただ毎日やるべき仕事をして、それ以外の時間は何にを考えているようにずっと黙っていた。この姿を見ていたスタッフは陸翔のことを心配していたが、誰も彼に声をかけるられなかった。この事態を静かに見守っていた事務所の社長は、もうこれ以上何もしないといけないと思って、陸翔を呼び出しバーでお酒を飲みながら話をしていた。
「なあ、陸翔。お前は最近調子可笑しだぞ、何かあった?」
「社長、俺は辞めようと思う」
「辞めるって?うちの事務所?」
「いや、俳優を辞めて、一般人になりたい」
「何で?やっぱり、晴夏がうちから出ていたことに関係している?」
「俺はもう続ける理由がなくなった」
「大げさだな、何でそうなったの?」
「俺は晴夏に振られた」
これを聞いた社長は飲んでいた酒を噴出した。彼は驚いた表情で陸翔を見て、自分の耳を疑った。
「お前ら…いつから?」
「大学1年生の時から、もう19年だ」
「そんなに前から?俺は全然気づかないなあ…君たちってよくここまで隠していたよ。で、彼女が出ていたの理由はあなたにあるってこと?」
陸翔は沈黙で社長の質問を答えた。
「そういうことか、だから彼女は…」
「何が?」
「だって、晴夏はあなたのキャリアに注ぐ情熱が他のマネージャーと比べて全然違うじゃない。ただの担当アーティストにそこまでして、俺は普通だと思わなかった。それで、一回晴夏に聞いたんだ、なぜあなたのためにそこまで尽くすって。帰って来た答えが君たちは長年の盟友だから、あなたが成功したら自分は一番喜ぶだって」
「そんなこと、彼女から一度も聞かされてないだ」
「まあ、晴夏は自分からそういうことを言わないタイプだから。それに、彼女はいつも言っていた、陸翔の成功はあくまであなた自身の努力と才能がもたらしたものだから、自分はサポートをしただけ。まったく、晴夏はいつもああいうふうに謙遜だったから」
「彼女らしいよ」
「あなたは知らないかもしれないけど、晴夏はうちの事務所に入ったばかりのころ、他のマネージャーたちは晴夏のことをよく思っていなかった。ただのコネ入社小娘がいきなりうちの事務所の有望若手俳優の専属マネージャーになり上がって、本当に散々言われてきた。それでも、彼女はただあなたのことに集中し、周りがどう言われようが嫌がらせを受けても、彼女は全然ぶれずに自分の仕事をした。その後彼女はあなたをちゃんとした実力俳優まで育て来たおかげで、周りをようやく黙らせた。しかし、そうなるまでの彼女は本当に苦労をした」
「嫌がらせのこと、知らなかった」
「あんたは晴夏がしたことに感謝するどころか、結構酷いことを何度もしたな。特に晴夏はあなたを幅広い役をできる俳優として売り込もうとした時期、いろんな仕事を取って来たのに、お前のわがままで何件も断った。それで、彼女は先方に頭を下げることが何回もあった。それと、お前の恋愛スキャンダルが事務所に結構迷惑をかけたなあ。マスコミの報道を加熱させないように、晴夏はどんな思いでそういうことを処理してきたか、今考えたらこっちまで胸が苦しくなるぐらい辛いのに。あんたって本当に罪深い男だ」
自分はどれほどどうしょうもない男って、今更だけど社長の言葉でようやく分かった。だから、晴夏は振り向かずに自分を振った。
「でもなあ、陸翔が俳優を辞めても、晴夏は帰って来ないと思うよ」
「俺は俳優を辞めたいのは別に理由がある。もう目指す目標はなくなるし、やる気もなく、このままだと周りに迷惑をかけるだけ。そしてこんなやる気のない相手と一緒に仕事している方々にもあまり失礼だ」
「しばらく休んでみたら?今すぐ引退とかを考えないでよ、冷静になったら…」
「俺は冷静だ。晴夏ともう一度一緒にいられるか俺は分からない。でも俺は諦めたくない。俺の決心と気持ちを彼女に見せるため、まずは自分を変えなきゃ。社長、俺はずっと晴夏の愛情に甘えていた。デビューした時から、俺は彼女の存在を隠していた。仕事のためとは言え、20年近く自分の彼氏と外でデートもできず、周りにも自分の彼氏のことを隠し続けなければならない、彼女はよくここまで頑張って来た。なのに、俺は彼女をひどく傷つけた。だから、俺は何とかしないといけないだ。俳優を続けているなら、俺はこんなことができない」
「とにかく、しばらくの間休め。話はそれからにしよう」
そう言われても、陸翔は決意した。どんな方法を使うかまだ分からないけど、いつか自分の変わった姿を晴夏に見せ、そしてもう一度彼女を取り戻そう。
*
2月上旬、陸翔は長期休暇へ入る前に、CMの説明会と契約のために、CM主のオフィスで会議することになった。そうしたら、その企業の顧問弁護士である慎也と会った。慎也からの誘いで、陸翔は久しぶりに慎也の家へ行って、男二人で初めて飲み始めた。慎也と真琴の離婚を知らなかったので、慎也からそれを聞かされた時の陸翔は激しく動揺した。
「まさか、慎也さんも…」
「あんたも大変だよな…」
「いったいあの二人はいつから決めたんだ?」
「まあ、俺らは彼女たちをずいぶん失望させたし、こっちから何の文句も言えないだ」
「もっと早く自分の過ちを気づいたら、挽回できるチャンスだってあるのに」
「今更遅いだ」
「じゃ、慎也さんは真琴のことを諦めたの?」
「もちろんそのつもりはないけど、今はどうするべきか分からない。だって、この前、未希の誕生日に二人と一緒に食事をした時、あれはうまく行かなかったから
「何があった?」
「未希はあまりにも落ち着かないから、何も食べないのに帰りたい一心だった。それで早めに切り上げて、会ってから2時間も経ってないのに、二人を真琴の実家へ送った」
「それは未希にとってなれないシチュエーションだから。だって、今まで慎也さんと一緒に食事をすることがあまりないし」
「だよな、あなたの方は俺より未希と親しいだろう。父親として、本当に情けない」
「これから挽回することができる。時間をかけても、未希はいつか心を開いてくれるはず。諦めずに続けよう」
「でも、11年間の空白をどう埋めると言うの?誕生日の時、未希は俺と目を合わせないし、言ったことはただ三つ、会った時のパパ、プレセントをあげた時のありがとうございます、そして別れ際のさよなら、しかもほぼ敬語」
「焦らない方がいい。未希はすごく繊細な子で、あなたが誠意を持って、彼女と接してみれば、未希はきっと感じるはず。そして、真琴を振り向かせるため、未希との関係が修復できない限り、それはあり得ないから」
「はあ、難しいだな。そちらも大変だろうね?」
「慎也はまだ未希があるから、真琴とのつながりは消えない。俺の場合、晴夏は本当に俺と絶交するつもりだ。そう言えば、真琴から晴夏の近況を聞いたんですか?」
「晴夏のカフェは春ごろオープンするらしい、その時お祝いの花ぐらい送ればいいじゃない?」
「彼女と会いたいだけど、目の前に現れたら、晴夏はきっと…」
「あなたもゆっくりしないとダメだよ。晴夏にはまだ時間が必要だし、あなただって彼女にあなたの変化を見せないといけないって言っただろう?だから、オープニングに行けなくても、せめてお祝いの言葉か何かを送ろう」
「そうね、そうしよう」
「じゃ、お互いの健闘を祈って、乾杯!」
「乾杯!」
失意した二人の男は一緒に酒を飲みながら、お互いへ励ましを送った。これから、自分の愛する女をもう一度自分に振り向かせるため、二人は精一杯頑張らないといけないだ。
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